読書の愉楽

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万城目学「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」

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 かのこちゃんというのは好奇心旺盛な小学一年の女の子。マドレーヌ夫人とは、そのかのこちゃんの家にある日突然居ついてしまった猫のこと。本書は、この一人と一匹のお話をつかずはなれずという微妙な距離で描いている。マドレーヌ夫人はジプシー猫で、いろんなところを渡り歩いて生きていたのに、ゲリラ雷雨の日にかのこちゃんの家で飼われている老犬 玄三郎のハウスの中に避難して夫婦となる。

 かのこちゃんは小学校ですずちゃんという不思議な女の子と出会う。それぞれの生活と取り巻きがあり、それぞれの範疇で物語が進められてゆく。そんな二つの話が時に交錯し、時に拡散しながら描かれてゆくのはとてもロハス的だ。

 だが、正直、中途半端な印象が強かった。読んでいてとても辛気臭いなと感じたのだ。とても和やかで平和な話がゆったりと流れていくのは、あまり好みじゃない。そういうのが好きな人もいるのだろうが、ぼくはちょっと苦手なのだ。でも、なんとなく読みすすめていったのだが、結果的にそれがよかった。

 というのもラストにむかって、話は相乗的な小さなうねりを見せ、不覚にもぼくは涙してしまったのである。途中の展開で、なんとも唐突にファンタジー要素が介入していたのだが、それがラストでもうまくいかされていて話の盛り上げに一役買っていたのだ。

 いままでの万城目作品の中ではとても小振りな作品なのだろうが、これ、結構いいと思う。安心して子どもたちにもすすめられる本だし、生と死について少し考える部分もあった。

 「鹿男あをによし」を読んでいないのは少しマイナス要素なのかもしれないが、基本的にセーフだろう。

 とにかく読んでよかった。いい本である。