ミステリ・フロンティアの最新刊である。これはちょっと興味を惹かれたので読んでみた。こういう歴史の真実を暴くという主題のミステリは過去にも沢山あって、みなさんもご存知のとおり「時の娘」「邪馬台国の秘密」などの傑作も数多く書かれているし、記憶の新しいところでは鯨統一郎「邪馬台国はどこですか?」が結構クリティカルヒットだったと思う。
こういった歴史ミステリのおもしろさは誰もが知っている通説を根底から引っくり返すところにあって、いってみれば白を黒にする背負い投げクラスの大技が醍醐味となるのである。
本書では四つの歴史的事実が覆される。まずはそれぞれのタイトルを書き出してみよう。
「漂流巌流島」
「亡霊忠臣蔵」
「慟哭新撰組」
「彷徨鍵屋ノ辻」
これを見ればわかるように、扱われている事柄は誰もが知っている歴史的事実である。それをしがない若手のシナリオライターと百戦錬磨の映画監督が、ああだこうだと議論していくうちに意外な事実が浮かび上がってくるというのが本書の基本的な構成。
第一話では有名な宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島での決闘について、思いもよらない新事実が浮かび上がってくる。この決闘について一般的に知られている数々の事柄、例えば武蔵が決闘の時間に遅れてきたとか、佐々木小次郎が美剣士だったとか、われわれが本来もっている巌流島の決闘のイメージは、吉川英治の小説や大河ドラマなどで植えつけられた誤ったイメージであって、実際あったであろう決闘の真実はそのイメージから大きくかけ離れたものであったのだ。
また赤穂浪士の討ち入り事件、新撰組の池田屋事件、荒木又右衛門の仇討ち事件それぞれについても本来培っていた勝手なイメージと大きくかけ離れた真実が浮かび上がってきて興奮をさそう。
これらの事実は、ちょっと歴史に詳しい人なら誰もが知っていることなのかも知れない。だが、それをこうしてわかりやすく且つおもしろくエンターティメントに仕上げた手腕は、なかなかのものだと思った。
いかんせん、構成に少々難ありだったが、それには目をつぶるとしょう。歴史の闇を新たな切り口で新鮮に甦らせた手腕に拍手を送りたいと思う。なかなか楽しめましたぞい。