読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

緒形拳と老婆の呪文

誰かと一緒に商店街を歩いている。

ぼくは、連れとなにやら話しながらキョロキョロあたりを見回した。

店はみんな閉まっている。ぼくら以外に誰も歩いていない。

どうやら、いまは夜明け前らしい。

よくよく見ると、ぼくと一緒に歩いている連れは緒方拳だった。

やがて、一軒だけ店を開けてなにやら仕入ているところに出くわした。

煌々と明りの灯った店の前に軽トラがとまっている。

ぼくらは通りすぎながら、軽トラの荷台を覗き込んだ。

荷台の上には子犬ほどの大きさのカニや、子羊ほどの大きさの緑色のエビが5,6匹のっていた。

こんなに大きな甲殻類は見たことがなかったので、二人ともしばし見入ってしまった。

感心しながら先を急ぐと交差点に差しかかる。

信号は点滅になっており、車の気配もない。

ぼくらはそのまま交差点を渡ることにした。

向こう側に渡ると、座席に座る。どうやら電車の中らしい。

ぼくの前にはお婆さんが座っていて、手を合わせて一心不乱に拝んでいる。

お婆さんの口から漏れる呪文のような言葉が、そのまま字になって空中を漂う。

ぼくは、それを一生懸命読む。

『きたいかん、きたいかん。むこけ、むこけ。こわや、こわや』

来てはいけない。向こうへ行け。怖い、怖い。と言っているらしい。

ぼくもなんだか怖くなってきた。

でも、我に返るとぼくは自分の部屋のベッドの上にいる。

つけているヘッドホンから『きたいかん、きたいかん。むこけ、むこけ。こわや、こわや』という声が聞

こえてくる。