読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

野村美月「文学少女と死にたがりの道化」

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この歳になってラノベ信者となったぼくだが、それでもどうしても苦手なものがある。

それは、この世界特有の『萌えキャラ』だ。そういう登場人物が出てくると、一気にテンションが下がっ

てしまう。「きゃうん!」とか「ふにゅ」なんてセリフが出てくると、もうダメである。

「つーか、お前可愛くねーよな」とか、「ひどぉぉぉぉぉぉぉぉい!」とかいうセリフにもピクッと反応

してしまう。

本書には、この手のセリフがポツポツ出てくる。またか、と思った。それでもうんざりするほどではなか

ったのでガマンして読み進めた。

これが正解だった。

いやあ、本書はなかなかおもしろかった。ぼく的には米澤穂信古典部シリーズよりもこちらに軍配を上

げたい。そりゃあ、文学が大好きだからって本のページを破りとってムシャムシャ食べてしまう美少女な

んて設定はやりすぎじゃないかと思ったりもする。でも、それが読み終わる頃にはしっくり馴染んでしま

ってるし、その頃にはページを食べたあとの感想が楽しみになっていたりするからたいしたものである。

しかし、それは枝葉の話であって、ぼくが強調したいのは本筋の部分なのだ。この本の紹介には『口溶け

軽めでちょっぴりビターな、ミステリアス学園コメディ』なんて謳われているが、これは少々的外れだっ

たりする。本書で語られる事件は、なかなかトリッキーで辛い話なのだ。

タイトルにもあるようにこのシリーズは文学がモチーフになっている。今回は太宰治の「人間失格」だっ

た。この太宰の心の声が強く反映された晩年の傑作を作者はいかに料理したのか?

う~ん、これがウマかった。過去に遡る事件の真相は、この「人間失格」を踏まえてラストで見事にどん

でん返しを決めてくれている。ぼくもすっかりダマされてしまった。そうかー、そうなのかー。いやい

や、一本とられてしまいました(笑)。

だから本書はミステリとしても大変健闘してるのだ。それにもまして、作中でチラホラ散見される文学作

品についての思わず興味を惹かれる紹介はどうだ。これは本好きにとっては、たまらない魅力だった。

過去の事件を扱っているという点で、どうしても「氷菓」とくらべてしまうのだが、やっぱりぼくは本書

のほうが好きだ。思わず続編の「文学少女と飢え渇く幽霊」も買ってしまったくらいだ。今度のモチーフ

は「嵐が丘」だそうな。それにミステリ方面では暗号も出てくるらしい。う~ん、読むのが楽しみだぞ。