読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ジャネット・ウィンターソン「オレンジだけが果物じゃない」

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ウィンターソンは、この本で二冊目である。先に読んだ「さくらんぼの性は」は、ユーモアと奇想に満ちたとてつもないホラ話で、小躍りしたくなるほどおもしろい本だった。そんな彼女のデビュー作が本書。

半自伝的な作品ということで、狂信的な母親との葛藤、同性愛者としての不安などの様々な問題を乗り越えて自我に目覚めていく過程がときにコミカルに、ときにシニカルに描かれている。

子供から大人へのイニシエーション的な大事な時期を主人公であるジャネットが一進一退を繰り返しながらもどうにかクリアしていくわけだが、途中にはさまれる数々の寓話がなかなかおもしろい効果をあげていることに注目したい。この数ページの素敵な寓話は、ジャネットの心象を巧みに取り込んだ象徴的な内容になっており、普通なら突然別世界が挿入されたらリズムが狂ってぎくしゃくしそうなものなのだが、この本に関してはそれが逆にプラスになっている。

家族およびその周辺の人々と過ごしたあれやこれやの毎日は、狂騒ともいうべき騒がしさだったが、それも乗り越えてみれば台風一過、あの混乱は何だった的な平穏さを取り戻し落ち着くところへ落ち着いた。

しかし、物語の途中でジャネットが爆発寸前まで抱えていた母親に対する反感はいったいどこへいったんだろう?と少し不思議に感じたのも事実だ。これはぼくが男だから感じた違和感なんだろうか?

まっ、とにかくウィンターソンは一目置くに値する作家であることに間違いはない。

本書を読んで彼女のことがますます好きになってしまった。