読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

舞城王太郎「ビッチマグネット」

イメージ 1

 前回の「ディスコ探偵水曜日」で初めての舞城挫折本を経験して、もうすっかり怖気づいてしまっていたのだが、信頼できる読み手のゆきあやさんの鉄板推薦をいただいて、この新刊に挑戦した。

 買って読むべし!とまで言われたら、もう読むしかないでしょ?で、本屋さんで探したけども毎度のことながら、欲しい本に限って本屋に置いてないんだよね。たとえ、それが新刊本だとしてもね。だもんで、セブンアンドワイで注文してやっと手に入れたというわけ。どうなってんだろうね、本の流通状況って。

 今回は、前回みたくわけわかんない世界を描いてるのではなくて、それ以前に彼が模索していた家族のお話なのである。それも、以前は定番だった理不尽な暴力やトンデモナイ設定を排除した至ってナチュラルな仕上がりとなっている。

 香織里と友徳の仲のいい姉弟。だが、父・和志は愛人を作って家を出ているし、母親・由起子はやつれて消極的な日々を送っているという誠にアンチな家庭が舞台。高校生の香織里は家族を捨てた父を憎みながらもなんとか折り合いをつけて、青春の日々を真っ当に生きようと足掻いている。母親につらくあたる弟も、香織里にだけは心をひらいてやさしく接している。そんなアンバランスな家庭の中では日常がすでにドラマと化しているのだが、そこは舞城君、深刻な設定を深刻に感じさせず、ひたすらポップにどこまでもあっけらかんと描いていく。読んでいてとても共感したのが青春の足掻きや思索がこれでもかというくらい濃密に描かれているところだ。主人公は女性なのだが、ぼくもこの時代は多かれ少なかれ香織里と同じ行程を経て大人になっていった。それが手にとるようにわかるから読んでいてうれしいし、とても刺激された。そこから広がっていく物語世界はあっという間に読み進んでしまえるくらいおもしろいのだが、やはりそこにも様々な思惟と思索が渦巻き読者を搦め取る。う~んやっぱり舞城君はこうでなけりゃね。

 生きてゆく上で人間に必要なもの。歴史と記憶と想像と思い込みと願いと祈りと連想と創造。そうそう、そうなんだよ。ぼくも君の意見に賛成。物語は世界を救うんだ。あのジャネット・ウィンターソンも言ってるようにね。

 それにしても、ゆきあやさん、キリンの脇に書いてあった『ヴァンプス・アー・リアル』って怖くなかった?ぼく、すっごく怖かったんですけど。