読書の愉楽

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アルフレッド・ベスター「願い星、叶い星」

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 ベスターといえば、やはり「虎よ、虎よ!」が超有名作品であり、数あるSF作品の中でも最重要図書として知られているが、あいにく未だ読んだことがない。今回紹介するのは、短編集である。

 この奇想コレクションに加えられたベスターの短編集、半分がた期待通りで残りはイマイチという感じだった。この中で思わず唸ってしまうのは、やはり「ごきげん目盛り」である。このユーモアと不気味さを兼ね備えた傑作は以前に一度読んでいるのもかかわらず、また読んで感心してしまった。何が素晴らしいといって、サイコ物とアンドロイドを一緒にしてしまうというアイディアが秀逸なのだ。無機物がサイコさんになってしまうことによりブラックなユーモアが強調され、しかし同時に背筋も寒くなるというはなれわざを成し遂げているのである。言うことなしだ。

  表題作の「願い星、叶い星」も、とんでもない発端からスルスルと糸が解けて、かつてない〈恐るべき子供たち〉の物語が紡がれる。これは、スタージョン「人間以上」よりインパクト強いかも。

 「ジェット・コースター」と「選り好みなし」と「時と三番街と」のタイムトラベルを扱った三作品は、ありがちなパラドックスのロジックを扱って捻くりまわしてない分、ストレートの直球勝負がうまく決まって軽快な作品に仕上がっている。

 「昔を今になすよしもがな」はベスター風味の破滅後の世界。登場人物のネジの外れかたが不安をかきたてる。この作品はヒネくれた展開がまた新鮮だった。

 「イヴのいないアダム」も破滅後の世界を扱っているが、こちらは少々インパクトに欠けた。

 そして、そして本書の大半を占める「地獄は永遠に」なのだが、これにはお手上げだった。ぼくは、どんな作品でもいいところを見つけようと努力するのだが、これは無理だった。まったくおもしろくない。魅力を感じない。アイディアはおもしろいのだが、独りよがりでついていけなかった。期待してただけに残念なことだった。