桐野作品は「OUT」しか読んでいない。あの作品は確かにおもしろかったが、どうしたものかこの作
家を追いかけようとは思わなかった。だから、それからは桐野作品を読んでない。
この作品は、ひと夏のほんの数日の出来事を描いている。主要人物は五人。女子高生のトシ、ユウザン
、テラウチ、キラリンの四人と母親を殴り殺した高校生ミミズ。
この五人がミミズを中心に『取り返しのつかないこと』にむけて絡みあう。
正直、こういう読後感になるとは予想してなかった。当初はもっと軽く考えていた。
読了したあとは、どーんと重いしこりみたいなものが胸の中に残った。そうかあ、取り返しのつかない
ことってこういうことなのか。しかし、救いのない話だ。事の顛末もそうなら、ここに登場する五人み
んなの環境もそうだ。恵まれた家庭に育っていても、多かれ少なかれ悩みというものは存在する。まし
て、それが円満でない家庭なら、親が感じる以上に子どもは心に傷を負っている。
そういった日常的な負担もあれば、非常にパーソナルな深刻な悩みもある。人は表面的な装飾の下に誰
にも見せない本当の自分を隠している。それが浮上してくることはない。心の声は誰にも届かない。誰
にも理解されない。そういった悲しみを心に秘めて自分を創りながら人は生きていく。
関係の崩れていない日常に突然訪れた非現実な出来事。様々な思惑が作用して五人それぞれの内面が曝
け出される。人間って弱いけどしたたかで、強いけどもろい生き物なのだ。読んでる間は、何がリアル
ワールドだ、と作者の手の内を見透かしたように思っていたが、読了した時点で亡くなった四人の方の
冥福を祈りたい気持ちになっていた。恐るべし桐野ワールドである。