表題作は、名のみ知れてずっと復刊されなかった作品である。その他、初収録作品が二つもある。
当時復刊され続けた風太郎本の中でも本書は貴重な一冊だった。
では、各作品の寸評。
◆「厨子家の悪霊」
山口雅也が好みそうな、まさにクリスチアナ・ブランドばりの作品である。ラストにどんでん返し
がこれでもかというくらいある。舞台設定は横溝の世界そのままで、あのスケキヨもどきまで出て
くる。道具立てもおもしろく、安心して読めた。風太郎の推理物はこの作品が初めてだったのだが
なかなかの手練である。
◆「殺人喜劇MW」
お互いが奸計をめぐらし、運命のいたずらによって物語は終焉に向かう。同じシチュエーションが
くり返しあらわれるのが風太郎らしい。「おんな牢秘抄」を思い出してしまった。
◆「旅の獅子舞」
探偵役の桐平老がいい。ひょうひょうとしているが学があり、自ら道化役にもなるこのひょうきん
爺は、頼れる爺である。古風な話かと思いきや、意外としっかりしたトリックの純然たるミステリ
だった。なかなか好きな作品だ。
◆「天 誅」
島田荘司もびっくりの奇想天外トリックが使われた短い作品。なんでもあり的なこのいさぎよさが
うれしい。
◆「眼中の悪魔」
医学生だった風太郎の面目躍如たる作品。彼の医学的知識がトリックに使われている。読んでいて
ソツのない非常によくまとまった作品で、この短編集の中でもピカ一ではないだろうか。
◆「虚像淫楽」
人間の心の不条理さを描いた好編で、渦中の女性の心理をあれやこれやと推理していくところがお
もしろい。どんな推理にも逃げ道はあり、人間の気持ちなんて表にも裏にもとれるのだなあと実感
してしまう。
◆「死者の呼び声」
ラストを飾るこの作品も、凝ったつくりだった。作中作の多重構造という構成であり、物語の行き
つく先がラスト近くまでみえてこない。印象に残る佳作である。
以上7編、風太郎ミステリの真髄を十分堪能させてもらった。