読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

島田荘司「ゴーグル男の怪」

イメージ 1

 久しぶりの島荘なのである。前回「写楽 閉じた国の幻」を挫折したので、完読としては「ねじ式ザゼツキー」以来だ。もちろん島荘の本はその間、何冊も刊行されている。ただ食指が動かなかっただけだ。

 

 だがこの「ゴーグル男の怪」はその奇怪なタイトルと影山徹氏の雰囲気満点の表紙をみて、いてもたってもいられなくなってしまったのである。
 
 濃霧がたちこめるレトロな街を走り抜ける『ゴーグル男』。それを見た者は口をそろえて、そいつの目のまわりの皮膚が爛れて筋肉が露出したように真っ赤だったと言う。そしてゴーグル男が目撃された夜に煙草屋の老婆が殺害される。散乱する真新しい煙草、上端が黄色く塗られた五千円札。納得のいかない事柄が散見する中、地元の核燃料製造会社の黒い噂が囁かれだし・・・・。

 

 本書は現代を舞台にしているにも関わらず、その雰囲気は昭和のものだった。それもなんだか変な感じなのだが、事件の内容が奇怪さをもとめているのにそれが充分強調されていないところが不満だった。
 
 昔の島荘なら、ここにもっと変態っぽさを加味して残酷美みたいなものを前面に押しだしていたのだが最近の島荘はなんだかおとなしくなってしまって物足りない。ミステリのトリックもしっかり構築されているのだが、なんだか噛み合ってない印象を受けてしまった。
 
 本作は以前にNHKで「探偵Xの挑戦状」として放送された話に加筆して本にしたそうなのだが、ドラマのほうは未見だった。だから新鮮な気持ちで本作に接することができたのだが、ちょっと期待はずれだった。面白くないわけではないのだが、丁度「暗闇坂の人食いの木」を読んだときのような残念感だった。