読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

背筋「口に関するアンケート」

口に関するアンケート

 てのひらに収まりそうなくらい小さくて薄い本。60頁くらいだから、すぐ読める。何人かの大学生のインタビューが続く。どこかの山奥にある墓地。地元では有名な心霊スポット。その墓地の真ん中にある大きな木がヤバいって。肝試しってありがちだし、誰でも経験あるでしょ?何人かで行って、きゃあきゃあ言いながら、ひところ騒いで帰ってくる。大抵は、それで終わりのささやかなイベント。
 でも中にはそれだけで終わらないこともある。

 不穏な雰囲気が横溢している。大きくアップされた美しかろう赤いリップの女性の口。「口に関するアンケート」って、怖さ、不気味さとは真逆の味気ないタイトル。でも、読み進めていくうちに、その無機質さがなんだが邪悪でさえあるように感じてくる。いったい何が起こっているのか。色が変わる字面、順番に登場する人々、それぞれの頭に書かれている日時だと思われる数字の羅列。ラストに用意されているタイトルそのままのアンケート。順番に設問に答えていくうちに巧みに誘導されて、導き出されるイメージ。全てが揃ったところでこの試みは不気味さと生温い恐怖を与えてくる。

 想像が現実を凌駕する。

 そうなの?そういうことなの?そんなことないよね?え、ほんとに?だって、ぼくは何も関係ないよ?呪われてるって?人の思いが?そんなことないよ、絶対。でも、ぼくもそう思う。この輪っかに首を通せばいいんだね?