読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

「中国怪談集」

 

 

中国怪談集 (河出文庫)

中国怪談集 (河出文庫)

 

 

 河出文庫からこの国名を冠した怪談集が出ていたのは知っていた。日本はもとより、イギリス、アメリカ、ロシア、ラテンアメリカそして中国。以前刊行されていた時には確かラテンアメリカだけ買っていたと思う。どこにしまってあるかは定かではないが。で、今回これが復刊されたのだ。ぼくは丸善の150周年記念復刊で購入したけど、昨年の11月に普通に復刊されたもよう。まあ、それぞれ編者が違うからその本ごとに特色が違うだろうし、お国柄もあるから怪談アンソロジーといっても様々な色合いのものが集まっているだろうことは予測できる。しかし、ああた、この中国のアンソロジーに収録されている作品の予想外のセレクトはどうだ?仮にも怪談集と銘打っておきながら、純粋たる怪談が一作もないという振り切った決断はどうだ?

 詳細はぜひ本書を手にとって確かめてみてほしいのだが、巻頭は、中国の人肉食の事例を紹介した掌編。まあ、これはまだいいやね。二番目は怪談というよりは、昔話的なお話。で、ここからが本領発揮なのだが次は清が揚州を侵略したときの出来事を侵略された側の視点で描く「揚州十日記」。ま、怪談じゃないやね。とっても怖い話ではあるけどね。で次がさらに人を食った話でタイトルが「台湾の言語について」。おいおい、学術論文?へ?あとは抜粋で紹介するけど、その昔中国に実在した天才の子が五歳の時に著した「宇宙山海経」。これは太陽系とその他の惑星を解説したもので、ふざけてるんじゃなくていたって真面目に語られているところが怖いといえば怖いんだけど、書いたのが五歳の子っていうのが驚くよね。

 さらにさらに驚くなかれ魯迅の「阿Q正伝」まで収録されております。この有名な作品、ぼく初めて読みました。このアンソロジー読んでなかったら一生読まなかったろうね。こんな話だったのね。でも、逆立ちしてもこれは怪談じゃないよね。で、ラストに控えているのが中国共産党北京市委員会宣伝部の「北京で発生した反革命暴乱の真相」。もうここまできたら、なんでもこいや!って感じなんだけど、最後まで気の抜けないアンソロジーだよ、まったく。

 で、ぼくが一番おもしろく読んだのは葉蔚林の「五人の娘と一本の縄」ね。これは、中国マジックリアリズムの傑作。こういう突き抜けた奇想テンコ盛りの話大好き、しかもあたたかくいい匂いのするフェミニンな風も吹いているという逸品。どうかみなさん、読んで驚いてくれたまい。