この本が出版されたのはもう二十年ぐらい前である。いまは、扶桑社ミステリーから出てるのだが、当時
はサンケイ文庫から出ていた。
作者のディック・ロクティは、もともと書評家だったのだが、本書でミステリー作家としてデビューを
はたした。
本書は、十四歳のセーラとくたびれた探偵ブラッドワース双方の視点が交互に入れかわる章立てで構成さ
れている。
事件の発端はセーラの愛犬グルーチョの失踪。警察に届けでてもまともに取り合ってくれず、逆に私立探
偵を紹介されてしまうのだが、それが凄腕といわれるレオ・ブラッドワース42歳。最初はただの犬探し
だったのが、そのうち不穏な空気が漂いはじめ、やがてマフィアが絡む大事件に発展していく。
分類でいえば、本書はハードボイルド。しかし、チャンドラーの「大いなる眠り」が雨ばっかりの陰鬱な
トーンだったのに対して、本書では陽光の燦々と輝く明るいカリフォルニアが描かれている。
とにかくセーラが最高。彼女はナイーブなんだけど、いつもへらず口ばかりたたいてる。ステレオタイプ
かもしれないが、ハマリ役なので読んでいてとても心地いい。
対するブラッドワースは、くたびれた中年男。よれよれで、うだつの上がらない男って感じ。
この二人が最初は反目しあうんだけど、おきまりのパターンながら事件を追うにつれてお互い助けあい、
奇妙な友情で結ばれていくのである。
う~ん、いまでは古いのかな?ありきたりすぎるのかな?
しかし、この本の好印象は忘れられない。ずいぶん昔に読んだにも関わらず、その印象だけは強烈に残っ
ている。
本書には続編「笑う犬」があるのだが、こちらは期待が大きかったのか世評は散々なものだった。
ぼく的には、こちらも全然OKだったのだけれども。