乱歩はほぼ伝説化しています。
その作品世界とオーバーラップする作家なんて、乱歩以外にはいないのではないでしょうか。彼の活躍していた時代の影響もあるでしょうが、彼はその世界を体現した作家でありました。
ぼくは、さほど乱歩フリークではありません。主な作品はみな読んでいますが、感心したのは「孤島の鬼」くらいでした。
でも、乱歩にまつわる数々のキーワードが醸し出す雰囲気には奇妙に惹かれる。
だから、本書に収められている九人の作家の手による乱歩世界を十二分に堪能させてもらいました。中でも特筆すべきは島田荘司の「乱歩の幻影」です。以前に一度読んでいるにも関わらず、非常におもしろかった。この作品はなかなかの傑作ではないでしょうか。風太郎の「伊賀の散歩者」も、彼らしく虚実ないまぜのブレンドが巧みで、舌を巻きました。蘭光生「乱歩を読みすぎた男」はポルノだがさすが式貴士、倒錯趣味をうまく扱って乱歩臭を最大限に引き出しています。竹本健治、芦辺拓、服部正の三人は、それぞれ持ち味を生かしていい味を出しており、特に芦辺拓の「屋根裏の乱歩者」は、小品ながら氏のフリークぶりがうかがえて興味深い。全体的にこのアンソロジーはよくまとまっていて、久しぶりにいいアンソロジーを読んだ気がしました。たいていのアンソロジーはおもしろくないのですが、この本はエキサイティングでしたね(笑)。乱歩フリークの方も、そうでない方もミステリというジャンルに興味のある人なら、楽しんで読めること請け合いです。
では、収録作を以下に紹介しておきます。
■ 「小説 江戸川乱歩」 高木彬光
■ 「伊賀の散歩者」 山田風太郎
■ 「沼垂の女」 角田喜久雄
■ 「月の下の鏡のような犯罪」 竹本健治
■ 「緑青期」 中井英夫
■ 「乱歩を読みすぎた男」 蘭光生
■ 「龍の玉」 服部正
■ 「屋根裏の乱歩者」 芦辺拓
■ 「乱歩の幻影」 島田荘司
■ 「伝記小説 江戸川乱歩」 中島河太郎