読書の愉楽

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山田風太郎、忍法帖ベスト10!

 大好きな山田風太郎のことをもっと語りたいので、独断と偏見でぼくの忍法帖ベスト10を選出してみました。ベスト10の時期でもありますしね。長くなりそうなんで、二回に分けたいと思います。今回は、10位から6位を発表!では、早速いってみましょうか。


 ■第十位■ 「忍法八犬伝

 言わずとしれた「南総里見八犬伝」をモチーフにした忍法帖です。しかしそこは風太郎、彼の皮肉な物語展開に思わず唸ってしまいます。忠孝悌仁義礼智信の八つの珠を家宝とする里見家当主 安房守忠義が、その家宝を徳川家に献上すると言ったことから、物語の火ぶたが切っておとされます。献上は一年後。里見家の取り壊しを目論む本多佐渡守は、八人の伊賀くの一たちに珠のすり替えを命じます。すなわち淫戯乱盗狂惑悦弄。

 存亡の危機にたたされた八犬士の子孫である忠臣たちは、甲賀で忍法修行している息子たちに命を託し切腹してしまいます。しかし、甲賀で修行しているはずの八人は、とうの昔に甲賀を逃げ出していたのでした・・・・。

 おいおい、この先いったいどうなるんだ?という展開です。かっこよく息子たちが駆けつけてくれるんじゃなくて、みんな、てんでバラバラになって好き勝手やってるんですから困ったもんだ。でも、それじゃあ話にならないってんで、みんな重い腰をあげることになるんですが、ここで困ったことに忍法修行の途中で逃げ出しているもんだから、敵に真っ向から勝負を挑めないっていう枷がかかってしまうんです。ここらへんのテイストは「柳生忍法帖」や「風来忍法帖」に通じるものがありますね。だから、おもしろい。やってくれます。これは、誰にでもすすめられる入門書としても最適の忍法帖だと思います。



 ■第九位■ 「外道忍法帖

 うってかわって、この本は忍法帖初心者にはけっしてオススメできない本です。

 本書には、三組の忍者グループが登場します。切支丹の財宝の在り処をしめす鈴を体内に隠し持つという大友忍法をあやつる十五童女。老中松平伊豆守の命を受けてその財宝を狙う十五人の伊賀忍者。そして財宝の横取りを画策する由比正雪配下の甲賀忍者十五人。その数なんと四十五人。

 その三組が、三つ巴の死闘をくり広げていきます。

 そりゃ、やり過ぎだろうと思って当たり前。その戦いのあっさりしたこと、また簡単に決着がついちゃって物足りないこと。まさしく、バッタバッタと人が死んでいきます。風太忍法帖の特徴として『トーナメント形式の闘い』という図式があります。敵、味方が一人づつ忍法くらべをして決着をつけていくというパターン。その代表格に「甲賀忍法帖」というのがあるんですが、多くの作家が初めて読んで虜になった忍法帖だというこの「甲賀忍法帖」ぼくはあまり好きじゃありません。同じ理由で「くの一忍法帖」もあまり好きじゃない。

 なぜなら、トーナメント形式になることによって物語のプロットとしてのおもしろさが半減しているからです。ゲーム感覚みたいな薄っぺらい印象を受けてしまうんです。で本書なのですが、そのトーナメント形式を節操ないくらいに思う存分くり広げたこの作品を、どうしてベスト10に入れたのかといえば、本書はただの決闘小説に落ち着いていないからなんです。

 宝探しというミステリ的な要素を主軸に据え、切支丹の殉教という無惨な悲哀をからめることによって、空前絶後のラストに集約されるプロットは、なかなか捨てがたい魅力を放っています。つけ加えるならば、ここに登場する長崎の遊女伽羅の魅力も一役を担っています。だから、一読忘れがたい印象を残す好編になっているのでしょう。おそるべし、風太郎。



 ■第八位■ 「自来也忍法帖

 講談の時代から、忍者といえば『児雷也』。誰もが、蝦蟇の上にたって印を結ぶ忍者の姿はご存知でしょう(といっても、いまでは知らない人も多いか?)。本書は、その忍者の代表選手の名を冠してはいますが、これはタイトルのみのこと。

 そこは風太郎、本家の名を汚すことなく、さらに上をゆく勧善懲悪のヒーローを作り上げてしまいました。本書がおもしろいのは、このヒーローたるべき忍者自来也の正体が伏せられている点でしょう。読者には物語中盤でその正体がわかってしまうのですが、でもそれは問題じゃない。要は登場人物たちが、自来也の正体を知らないというのがポイントなんです。それにより、物語の進行に自由度が生じ、作者が意図する以上に痛快な読み物となっているんです。ヒロインたる鞠姫の闊達で明るいキャラクターや、その相方の唖で気のふれた石五郎の奔放な行動が物語にユーモアを添え、忍法帖の中でもひときわ異彩を放った好編に仕上がっています。

 これを読むと、だれもが石五郎の言う「ら、ら、ら」というフレーズの虜となることでしょう。



 ■第七位■ 「忍びの卍

 伊賀・甲賀・根来とある御公儀忍び組のうち、最も優れた一派を選ぶという難題の吟味役として任命された椎ノ葉刀馬。しかし、これは物語のプロローグにすぎなかった・・・。

 めずらしく、本書には三人の忍者しか登場しません。これは、山田忍法帖のパターンからいえば、かなり異質の部類です。しかし、それだけにいつもなら忍法を披露する見せ場を与えられると潔く散っていく忍者たちと違って、ここで登場する三人は丹念に描かれ、忍者の非情な世界や悲哀が浮き彫りにされています。

 さらに!三組の勝敗が決まってから物語はフルスロットルで疾走していきます。選ばれた者と選ばれなかった者があいまみえ、吟味役の刀馬をも巻き込んで、予想もつかない展開をみせていくんです。陰謀、謀略、様々な言い方はありますが、権力の渦に巻き込まれ、どんどん深みにはまっていく彼らには、つねに手駒としての悲哀がつきまとっています。

 そして、そして、さらに!ラストでは、思わぬどんでん返しが読者を待ちうけています。ここまでくると、読み手としてはもうお手上げ状態。山田風太郎大先生には決して足を向けて寝れないなと思いました(笑)。



 ■第六位■ 「忍法封印いま破る

 本書は「銀河忍法帖」の続編にあたります。まっ、続編といっても大久保長安つながりなだけなんですが。「銀河忍法帖」の事件の翌年。公儀忍び組の服部半蔵のもとに長安から半蔵の妹であるお都奈、服部家の侍女であるお芦、同じく侍女であるお菱の3名を妾として差し出せと命がくだります。余命長くない長安が自身の『サイエンスの知識』を存続するために、くの一たちに胤を残し子を産ませようとしているのです。

 無事身篭った三人の女性を警護するため長安に選ばれたのは、お都奈の許婚で長安の末子おげ丸。彼は長安に反しその知識を受け継ごうとはしないで服部半蔵のもとで忍者としての教育を受けていました。

 やがて、長安が死すとともに、お家は取り潰しとなり三人の妊婦に魔の手が伸びてきます。果たしておげ丸は、甲賀忍び組の精鋭から無事彼女たちを守りとおすことができるのか?風太忍法帖は、構図的には似たパターンが多いかわりに、各作品に約束事をもうけ、物語を複雑にしていくという手法をとっています。一種のルールを決めてしまうんですね。本書では、主人公の伊賀忍者おげ丸(なんて名前なんだ)が、いまは敵となってしまった服部半蔵に義理をたて、攻撃に忍法を使わないという枷を自分にかけてしまうんです。

 対するは半蔵傘下の甲賀忍者五人衆。かなりの強敵をまえに、読者としてはそんな重い枷を与えてしまって、おげ丸ほんとうに大丈夫なのか?と他人事ならぬ心配をしてしまいます。しかし、彼は強い。忍法帖の中でも1,2を争う強さなんじゃないかと思います。でも、彼は忍法を封印しているので、力を最大限には発揮していません。封印された忍法は、破られるのか?結果は読んでみてのお楽しみ。これもかなりヒートアップする一冊です。



 というわけで、長々と書いてまいりましたが、10位から6位の発表がすみました。明日は、上位5作品アップしたいと思います。いま、しばらくお付き合いください。