この間羊太郎氏、もうお亡くなりになっているんですが、この人は器用貧乏みたいなところがありまして、色々ペンネームを使い分けて各ジャンルで活躍されてたんです。ある時はポルノ作家の蘭 光生、あるときはSF作家の式 貴志という具合にね。
で、今回紹介しようと思ってるのが、このSF作家 式 貴志なのであります。
式 貴志のSF作品はそのほとんどが、かつて角川文庫から出ていました。全部で七冊。そのうち一冊は長編「虹のジプシー」という作品なんですが、残念ながらこれはぼくも読んだことはありません。他の六冊はすべて短編集で、こんな感じの本です。
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当時、たまたま手に取ったのが「カンタン刑」だったんですが、これがめっぽうおもしろい。筒井康隆のSF短編が好きな人には、オススメって感じの内容なんですが、ポルノ作家として活躍していた人だけあって、中には相当エロい作品もあります。こりゃ、モロ官能小説だなと思ったのが、『吸魂鬼』に収録されている「触覚魔」。これは、指先からエクトプラズム(霊体)を出して、目に見えぬ手で色々好き放題しちゃうっていう、なんともうらやましい話でした。「猫は頭にきた」は、好きな女性の飼い猫と意識が入れかわってしまう男の話。これも、とてもうらやましかった(笑)。
それと、これも断っておかなければなりませんが相当グロい作品もあります。「カンタン刑」や「首吊り三味線」なんて作品は、生理的に受け付けない人も多々あるかと思われます。だって、ゴキブリの詳細な解体描写や、絞首刑の薀蓄なんて知りたくないって人多いでしょ?
でも、その反面、彼の作品にはとてもセンチメンタルで、ロマンティックな作品もあるんです。「アルジャーノンに花束を」を彷彿とさせる「Uターン病」や、ロバート・F・ヤングの作品のようにメランコリックでせつない「マスカレード」など、忘れがたい印象を残します。
割合でいえば、エロ5、グロ3、センチ2って感じでしょうか。でも、それらが巧みにブレンドされた作品もあったりして、なかなかおもしろい。単なるアイディアストーリーに留まらない、豊かな薀蓄と意外な展開に裏打ちされた良作、怪作が目白押しなのであります。
それともう一つ断っておかなければいけないのが、この作者恒例の『長~いあとがき』です。六冊のうち四冊に、この『長~いあとがき』がついてます。これ、自作の解説もあったり、前回出した本のアンケート用紙をもとに、自作に対する巷の反応を詳細に分析したりして本編を食ういきおいで書かれてるんです。なんせ、短編二、三本分の長さがあるんだから、相当なものです。
というわけで、いまは忘れさられてしまった作家、式 貴志を紹介してきたワケなんですが、おそらくこの作家の本は、この内容じゃ復刊されないでしょうね。っていうか、おそらく出来ないでしょう。
何年か前に、出版芸術社から「鉄輪の舞」って本が出ましたが、それっきり出てませんからね。
それが、ちょっとさみしい。もっと読まれてもいいと思うのですが・・・。