読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

コニー・ウィリス「犬は勘定に入れません~あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」

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 では、「ボートの三人男」を本歌取りした傑作SFいってみましょうか。

 

 本書はタイムトラベル物であります。21世紀と19世紀を行き来し、過去の遺物を存続しようとする史学生ネッドとヴェリティが本書の主人公。

 

 で、あのユーモア小説「ボートの三人男」を下敷きにしてるだけあって、本書も最初から最後までこそばゆいユーモアに溢れた楽しいSFに仕上がっています。

 

 ほんと、世界にどっぷりハマッてしまいます。「ボートの三人男」そのままの、あのおおらかで牧歌的な世界と異常にエキセントリックな人たちの醸し出す雰囲気を大いに満喫しました。

 

 物語的には二つの大きな謎があるわけですが、その解決も見事に着地して(伏線的にも二重丸ですしね)タイムトラベルといえばつきもののタイムパラドックスをうまくからめて満足のいく大団円でした。

 

 そうかあ、こういう料理の仕方もあるのかと感心しましたね。ひとつ難をいえば、時空の齟齬の件に関しては、うまくいいくるめられたような気がしないでもないのですが、でも本書を読んでる間ほんとに安心しきって身をまかす心地良さが持続してました。

 

 とりあえず、ほんとにあるのなら一度、主教の鳥株をこの目で見てみたいものです。

 

 尚、本書の中で、あの長大なミステリの始祖的存在ともいうべき「月長石」

 

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 のネタばれがあるので、もし、この本も未読の方で興味がある方は先に「月長石」を読んでおくことをオススメいたします。かくいうぼくも、予習として「月長石」を読んだのですが、文庫本で800ページ近くあるにも関わらず、読み出すとやめられないオモシロさでした。時代がかった大仰なところはありますが、ゆったり読書するのに最適な本という感じです。ディケンズに代表される当時の大衆文学の最良の部分を堪能できることでしょう。

 

 あと、「ボートの三人男」関連の本で、あの巧者ピーター・ラヴゼイが「絞首台までご一緒に」というミステリを書いています。

 

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 こちらは、ぼく的にはオススメするほどでもない印象を受けました。ミステリとしても平均より下の感じだし、ユーモア部分をとってもそれほどでもなかった。あのラヴゼイなら、もっとうまく書けたのではないかと思ってしまいました。