なかなか楽しめます。
本書は、19世紀のヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台にした、ユーモア小説です。三人の男がボートにのってテムズ川をキングストンからオックスフォードまで旅する話。ただ、それだけの話なのに本書は無類におかしい。
当初、作者のジェロームは、テムズ川にちらばる史跡をもとに歴史や観光を主とした旅行記を書こうとしていたそうですが、作者の人柄がそうしたのか話は脱線し、極上のユーモア小説になってしまってるんです。
まず、登場するジム、ジョージ、ハリスの三人共自分が可愛くて、身勝手なところがわかりやすくてよろしい。そういう性格が引き起こす混乱と『マーフィーの法則』的なお笑い満載で、優雅で気品漂う印象だったボートの河遊びがモンティ・パイソンに連なる英国伝統のユーモア溢れるスラプスティックになってるんです。特におかしいのが、ハリスの言動でしたね。ハムトン・コートの迷路事件や、コミックソングの件や、深夜の白鳥との格闘場面など勘違いに上塗りするような妙な自信が巻き起こす騒動が、大いに笑えます。
古い小説なんですが、本書に登場するギャグ(あえてギャグといいます)には、いまのお笑いの基本となるシチュエーションがみんな入ってるといっても過言ではないでしょう。
秋の夜長、ゆったりと読書するには最適の本なのではないでしょうか。
尚、本書の紹介はこれから紹介しようと思っている本の前フリであります。
この次は、本書を本歌取りした傑作SFを紹介したいと思います。