この本は、ぼくが勝手に決めている感涙SFベスト3の一冊です。
まず、作者の名前に注目してください。どう見ても男名ですよね。でも、この作者女性なんです。
彼女がデビューしたのは60年代も後半、そして女性だということが発覚したのが76年。その間、彼女は男性作家として、SF界にその名を馳せていました。
彼女は、自分の正体が暴露されたあと、数本の作品を書いて、1987年にアルツハイマーの夫を射殺後自らの命も絶ちました。享年72歳。彼女が歩んできた人生は、波乱に満ちた劇的な人生でした。
そして、今回紹介するこの「たったひとつの冴えたやりかた」は、そんな彼女が正体をばらされ、失意の日々を送っていた間に出版された本なのです。ということは、彼女が本書を書いたのは70歳代なんです。
驚きませんか?ぼくは、正直驚きました。本書を読んで、二度びっくりです。
どうでしょう、この新鮮な感覚は。とても、70を超えた老女の手になる作品とは思えない。バリバリのSFでありながら、そこには躍動する人間がいました。まったく基本的な人間ドラマが描かれ決してハッピーエンドではない作品たちに、重層的な世界観を与え大きな感動を呼びました。
たとえば「衝突」という作品は、ファーストコンタクトと、それにつながる戦争を描いているのですが、一触即発の危機を回避するために登場人物たちがとった行動は、涙なくしては読めません。
表題作においては天真爛漫な少女を主人公にすえ、初の星間旅行に飛び出すユーモラスな冒険物語風に始るのですが、冷凍睡眠から覚めた少女の頭の中にエイリアンが寄生し、お互い意気投合して友人関係を保つかにみえた矢先、思わぬエイリアンの秘密が浮かび上がってきます。この表題作の結末も苦い。
だが、それゆえに忘れられない作品となっているんです。
表紙が少女マンガ風なのがちょっといただけないですが、どうぞ手にとってみて下さい。
必ず満足されることでしょう。