さてさて、この作者の代表作といえば、やはりあの結末部分が袋閉じされた「歯と爪」なんでしょうね。
残念ながらその代表作はまだ読んでないんですが、今回はその作者のもうひとつの代表作といえる本書を
紹介したいと思います。
いわゆる本書は記憶喪失物なんです。物語は、主人公である私が病室で目覚めるところからはじまりま
す。わけがわからない私が事情を聞くと、ニューヨークの夜の街路で、咽喉を切られ倒れていたという。
靴をはいていただけで、あとは裸だった。 靴の底には千ドル紙幣が一枚入っていた。
回復した私は、記憶を取り戻すため自力で調査を開始する。唯一の手がかりは千ドル紙幣だけ。
本書の真相は、まったく恐ろしい。全編に不気味な雰囲気がつきまとっています。
主人公の私は、無感動で冷たいし、彼のみる悪夢はわけもなく怖い。
そこらへんのホラー小説より、本書のほうがより現実的なだけに、うすら寒いものをおぼえます。
記憶をなくした主人公が、わずかな手掛かりをもとに事件の核心にせまっていく話はよくありますが、本
書はその怖さというものを、もっともよく表現しています。
ロマンス的な要素がラストにチラッと出てくるのが、真相を知ってからの戦慄に拍車をかけます。
ぼくが思うにラストで登場人物の一人が受けたショックは、一生たち直れないものではないでしょうか。
それにしても、不気味な話です。かなり後味も悪い。そして何より本書は怖い。
怖くて不気味な話が、好きな方は是非ご一読を。