負傷して身動きのとれない男性が、気のふれた女によって監禁される話といえば、誰がなんといおうとや
じシチュエーションのサスペンスミステリーなのである。後付意見で新発見でもなんでもないぼくの勝手
な推測なのだが、おそらくキングは本書を読んでいたのだろう。そして、その骨子だけを抜き出してキン
グお得意のニューロティックで恐怖面を強調した物語として書いたのが「ミザリー」なのだ。
「魔女の館」と「ミザリー」は、それくらいよく似ている。
本書では、大学講師のパットが同僚アダムズの不正を暴こうとする場面で幕をあける。詰問しようとする
パットから逃げるように立ち去るアダムズ。カーチェイスの果てにようやく追い詰めたパットはしかし、
逆襲され大怪我を負ってしまう。殺人を犯してしまったと勘違いしたアダムズは逃走、残されたパットは
近くに住む『魔女』と恐れられる老婆の家に運びこまれて介抱されるのだが、その老婆は彼のことを今は
いない息子に見立てて外部から完全に遮断し、監禁してしまうのである。帰宅しない夫の身を案じるパッ
トの妻アナベルは必死に彼の行方を捜そうとするのだが・・・・・。
同じシチュエーションでありながら、本書と「ミザリー」の構成は根本から違っている。完全な密室劇と
状態よりもウェイトを占めて描かれるのが夫の身を案じて奔走するアナベルの姿なのだ。当然のごとくど
ちらもラストに描かれるのは監禁状態からの解放の成否なのだが、そこへ到達する過程がまるで違うので
ある。本書の面白みは監禁状態におかれた人間の極限にはない。その枠外で描かれる人間関係の不可解さ
にこそ本書の読みどころがあるのだ。逃げ去ったアダムズの娘であり、常に周囲から置き去りにされてい
ると思い込んでいるヴァイオレット。アダムズの後妻であまりにも現実感のない美貌だけが取り柄のセリ
アとその双子の兄セシル。そして渦中の「魔女」であり、犯罪者でもあった息子をいまでも溺愛する気の
ふれた老婆ミセス・プライド。これらの人物をうまく配し、それを注意深く出し入れしながら物語を佳境
に導く手腕は素晴らしい。当然のごとくミステリとしてのサプライズは無いに等しく話の結末も予想でき
る。それでもグイグイと最後まで読まされてしまうのだから大したものではないか。おっと、サプライズ
は無いと書いたが、ひとつあった。本書に登場する二人組の刑事の一人の正体がラストで明かされるのだ
が、これには少なからず驚かされた。いったいどういうことなのか気になった方は自分の目で確かめてく
ださい。