読書の愉楽

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森川智喜「キャットフード」

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 本書の解説を麻耶雄嵩が書いているのである。ということは、これは本格なんじゃね?そう思ってぼくはこれを読むことにした。

 

 しかし、これがああた、まったくもって不埒なミステリだったのである。まず、設定が普通じゃない。だって、化け猫ですよ。化け猫がね、人間を材料にして人肉キャットフードを作ろうとするのだ。引く?引いちゃう?でしょ?

 

 で、その化け猫ってのが、何にでも変身できちゃうっていうのが一つのルールになっている。いわゆるミステリ上の縛りってやつね。その化け猫たちが待ちかまえている、ある島にバカンスの名目で4人の若者が連れてこられる。もちろん彼らは、人肉ミンチにされる予定なのだが、その中に人間に化けたネコウィリーが混じっていた。その猫は、一緒にバカンスに参加している事実上の飼い主を自分の立場を利用して守ろうとする。化け猫同士で殺し合うのはネコ社会では御法度なのだ。これが二つ目の縛りとなる。同族同士では殺し合いができないため、誰が化け猫の化けた人間か突きとめない限り、手を出せなくなってしまうのである。

 

 こうしてすべての関係性とミステリ上の縛りが特定されて、読者を巻き込んで物語は進んでゆく。つまり、読者にはどの若者がウィリーなのかがわかっている。だから、本書は犯人や動機を追及するのではなく、他の化け猫がどうやってウィリーの化けている人間を特定するのか?またウィリーはどうやってそれを阻止するのか?を描くミステリなのである。定義が生まれるとルールが光る。それが単純であればあるほど、読者にとって読み応えのあるミステリとなる。これはぼくがいつもミステリを読んでいて感じることだ。この概念は『落とし穴』だといってもいい。単純なのに、あまりにも巧みに隠されているため、そこに落ちるまでまったく気がつかないのである。そういった意味では、本書のミステリ度は、まだまだなのだが、この作者の書くミステリはあまりにも変化球すぎるので、その弱みを補ってあまりある期待をもってしまう。それは狂言回し的な三途川 理(さんずのかわ ことわり)という私立探偵の存在ひとつをとっても如実にあらわれている。だって、この探偵もぐもぐしちゃうんだよ。もぐもぐ、もぐもぐ。えー、本当に?本当にもぐもぐしちゃったの?

 

 別に錯乱したわけではない。本書を読んだ方なら、このもぐもぐの意味はよぉーくわかるはず。気になった方はどうか本書をお読みください。薄い本なので、すぐ読めちゃいますよ。