読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

竹宮ゆゆこ「砕け散るところを見せてあげる」

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 なかなか衝撃的なタイトルだ。砕け散るって?見せてあげるって?自爆テロ?しかし、当然のごとく本書の内容はそんな非人道的なものではない。むしろ、その真逆だ。ここで描かれるのは、真っ当な行為の神性とでもいうべき不変のテーマだ。

 それは正義。誰もが知っていて、それが正しいとわかっていても貫きとおすことの困難さを思い知っているあの正義。それを行うことに対してあらゆる勇気を総動員しなければならない正義。ぼくは正義を知っている。だが、それを信条としているかといえば、否と言う。

 本書の主人公である濱田清澄は、その正義を大前提に生きている高校生だ。彼は受験を控えた大事な時期にいじめにあっている一年生の女子生徒に出会う。彼女の名は蔵本玻璃。はじめて見る彼女はいかにもいじめにあいそうな野暮ったい印象の猫背の女の子だった。正義のヒーローたるべく、彼女を助けようと手を差しのべた清澄に対して玻璃がとった態度はしかし、絶叫という全否定だった。

 ぼくは本書を読んで、久しぶりにときめいた。もう不惑をはるか昔に過ぎ、四捨五入すれば五十になってしまうぼくが、なんと小説読んでときめいちゃったのである。野暮ったいはずの玻璃ちゃんと不器用な清澄くんの関係に心の底からエールをおくりながら本書を読みすすめていったのだ。

 だからラスト近くの急転直下の展開には心底ビビッた。不穏な空気は半端過ぎから静かに漂っていたのだが、まさかこんなことになるなんて。しかし、本書の驚きはそれだけではなかったのである。

 ここで断っておくが、本書をまっさらの状態で読みたい方はこれ以降の文章を読まないでいただきたい。決してネタバレするわけではないのだが、これからぼくが書こうとしていることは、もしかしたら興を削ぐことになるかもしれないのだ。




 ということで、上記の警告を理解した上でこれ以降の文章を読んでおられる方にだけ書きますね。本書には、ラストになって明かされるあるトリックが仕掛けられている。それは、記述媒体でしか成立しないもので、逆にいえば映像不可のもの。ぼくは、これを手放しで喜ぶ読者ではなかった。途中、首を傾げる描写が出てきた段階で、なるほどそういう仕掛けがあるのかと気づき、それを楽しみにしていたのだが、本書で仕掛けられているトリックは、さほど歓迎できるものではなかった。なにがダメといってこの仕掛けが必然かといわれれば、決してそんなことがないなと思えるところがいけない。

 それでもぼくは本書が好きだ。ラブ・ストーリーでもありながら、本書は父と子の物語でもあるのだ。桜庭一樹の「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」みたいな話じゃなくてよかったあ。

 ※これ、ラノベじゃないのかもしれないけど、一応ライトノベルに入れておきます。