読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

「死ニカタ」

 先生は言った。「あなたたちも、一生懸命なさい」

 ぼくたちは戸惑った。なぜなら、先生が何を強要しているのかがわからなかったからだ。でも、聞きなおすような雰囲気じゃなかった。先生の耳から湯気が出てるってことは、かなりヒート・アップしてる証拠だもの。そのとき、いきなり電話のベルが鳴った。

 じんちゃんの携帯だ。高くなったり低くなったり、変な着信音。

 先生が湯気を出しながら、キッと目をやる。じんちゃんは先生の目に射すくめられて、硬直する。

 携帯の変な音は鳴りっぱなし。じんちゃんは電話に出ることができない。心底から先生にビビッちゃってるから。

 「出なさい」押し殺すような声で先生が言う。じんちゃんがビクッと身をすくめる。

 「はやく出なさい。おうちからかも知れないでしょ?学校にまで電話してくるってことは、急な用事かも知れないでしょ」

 おそるおそる携帯を取り出し、電話に出るじんちゃん。

 「はい、もしもし」

 じんちゃんは相手の声に耳を傾けている。先生は瞬きもせずにじんちゃんを見つめている。さっきより顔色が赤いんじゃない?

 「うん、うん・・・・・うん、わかった。・・・・え?亀が?」じんちゃんが先生に目をやる。ぼくもつられて先生を見る。うわあ、先生の顔、緑色になってる。赤いのを通りこしちゃった。じんちゃんも驚いて、しどろもどろになる。

 「あう、いや、ううん、うんうん、こ、こ、こんど、う、うん、うん、はい、はい」

 電話を切ったじんちゃんは、申し訳なさそうに先生を見やる。

 おでこにヒビがはいって、何かがのぞいてきた先生は、さっきより大きくなった口で、じんちゃんを問い質した。

 「で、なんだったの?大事なお話?」言ってることはやさしいが、声は変質して割れ鐘をたたいたような声になってる。ぼくは思わずチビった。おなじ格好で股間をおさえている隣のみよっちもたぶん洩らしちゃったんだろう。

 先生の声に、さっきより10センチは縮んでしまったじんちゃんは、小さな声で「いえ、大丈夫です」と答えた。

 「どういうこと?会話が成立してないじゃない?どうして先回りして答えるの?聞かれちゃマズい話だから?」そういう先生の目は瞳孔が縦長に細くなっていた。おでこからは白い突起が出てきて、大きくなった口からは尖った歯がせりだす。言わずもがな。先生は鬼になりつつある。

 こりゃ、筒井康隆の「死にかた」だ。あれの学校バージョンだ。絶対そうだ。いまから鬼になった先生はひとりづつ生徒を殺していくに違いないぞ。手始めは間違いなくじんちゃんだ。いけない。いけない。殺される前にここから逃げ出さなくては!


 そうして、ぼくは目を覚ました。