いままで本を読んでいて、寝食を忘れるくらいのめり込んで読んだ本というのは数えるほどしかない。
一番最初に経験したのが高校のときに読んだ山田風太郎「魔界転生」だ。これを、あまたある忍法帖のベスト1に挙げる人も多いように(事実、ぼく自身も過去に選出した「山風忍法帖ベスト10」でこの作品を1位にしました^^)これは、読み始めるとやめられないおもしろさに溢れていて、物語の構成の巧みさから醸し出されるサスペンスの素晴らしさは、他の忍法帖の追随をゆるさないといっても過言ではないだろう。まして、それだけではなく時にはユーモアを、時には恐怖を最大限引き出す演出は小説の神様だと唸らざるを得ない出来栄えである。
次に寝食忘れたのが中井英夫「虚無への供物」ラスト300ページである。まさしく怒涛の展開で、ページを閉じることができず一気に300ページを読み通した。ミステリのラスト部分で、これだけ興奮したのはクイーンの「エジプト十字架の謎」とこの本だけである。
だが、一般的に評価の高い作品で挫折した本も結構多かったりする。いまでも忘れられないのがデュマの「モンテクリスト伯」だ。これは誰もが超面白本の筆頭にあげる本でもあり、古典が苦手な人でも安心してすすめられるエンターテイメント作品だ。しかし、どうもぼくには合わなかった。それでもがんばって二巻目の真ん中ぐらいまでは読んだのだが、ギブアップしてしまった。
トールキン「指輪物語」もそうだ。旅の仲間の一巻目まで読んだが、いっこうに旅に出る気配がないのでこれも挫折。
エーコ「薔薇の名前」は上巻読了した段階でストップ!どこがおもしろいのかわからなかった。これはどういうこったろうね?やっぱりその時の体調とか精神状態が大きく作用しているのは間違いないと思われるのだが、どの部分が針を振り切って挫折してしまうのかは、いまだに謎なのである。
SFではクレメント「重力の使命」ベイリー「カエアンの聖衣」ディック「暗闇のスキャナー」などの超有名作品がことごとく玉砕。残念至極である。
かように振幅の激しい読書歴なのであるが、いまだにときめいてしまうのはどうしてなのだろう?
これだけは死んでもなおらないと思われる。まだ見ぬ本まだ見ぬ作家たち。ページを開けば広がる世界。
この楽しみだけは、何にもかえられない至高の愉楽なのである。