ドラマ先行で観ていたのだが、どうもがまんできなくなって原作を読んじゃいました。おもしろいのは、ドラマを観て大まかなストーリーを知っていたにもかかわらずグイグイ読まされたこと。池井戸潤の小説作法のひとつに溜飲を下げるカタルシスの演出があるとおもうのだが、このくだりは何度体験してもおもしろい。窮地に立たされる主人公、どんどん追いつめられ叩かれ殴られ立ちあがれないほど痛めつけられても最後の最後に逆転勝利をおさめる。結果がわかっているにもかかわらず、この手順をふまれると興奮して読んでしまう。元来、物語の構築においてこの手法は受け手の感情を巧みに鼓舞するものなのだ。
もうドラマでおなじみだが、本書の主人公、半沢直樹も五億円の大口融資金を騙しとられ、自らがまねいた事態でないにも関わらずスケープゴートとして全責任をとらされる破目に陥ってしまう。銀行という旧弊で保守的な官僚体質丸出しの閉鎖空間で、逆らうことの難しい上司からの糾弾に真っ向から立ち向かってゆく姿はハラハラすると同時にその成功を予期して胸の中は常に快哉を叫ぶ準備を整えている。
当然のことながら、この原作とドラマでは細かい部分で描かれ方や設定が異なっている。それを比較するのもおもしろい。たとえば国税が査察にきたときにターゲットにされているのがどこなのかを知るくだりや、半沢の家庭環境の設定などがドラマとは微妙に違っている。また半沢のキャラクターもドラマで馴染んでいる堺雅人のキャラ設定と少しズレがあってそういう部分も新鮮な感じで楽しめた。
やはり池井戸潤はおもしろいね。