読書の愉楽

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リンウッド・バークレイ「崩壊家族」

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 前回「失踪家族」を読んでかなり気に入ったリンウッド・バークレイの新作である。前回に続いてまた家族のつくタイトルだが、これはあまりいただけない。家族しばりでタイトルにこだわらなくてもいいのにね。しかし、本書もひとつの家族がおちいる窮地が描かれている。

 

 隣家で起こった一家惨殺事件。それに我が子が関わっているかもしれない。主人公であるジム・カッターは息子のデリクが殺人事件の容疑者になってしまうというとんでもない不幸に見舞われてしまう。まさかデリクが人の命を奪うはずはない。信じる気持ちは強いが状況証拠は息子に不利なものばかり。なぜならば隣人一家が殺された時、デリクはその場にいたのだ。正確には階上で一家が惨殺されている時、彼は地下室に潜んでいたのである。だから彼は真犯人ではない。だが、警察はデリクを容疑者として逮捕してしまう。いったい、隣人一家を殺したのは誰なのか?

 

 そして事はそんなに単純でない展開をみせる。隣家からなくなっている古びたパソコン。そこに残されていた過去に自殺した大学生が書いたと思われるポルノめいた小説。殺人が行われた時、階下にいたデリクが耳にした「恥を知れ」という言葉。小説の盗作疑惑。ジムの妻エレンの過去の不倫。そして、事件の犯人がジムの家と隣家を間違えたのではないかというあまりにも恐ろしい疑惑。それぞれの登場人物の思惑が交差し、事件の真相は思わぬところへ読者を導いてゆく。

 

 600ページを超える長い本だが、これがなかなか素晴らしいリーダビリティでぐいぐいと読ませる。ひとつ難点を挙げるなら、主人公であるジムの人物造形が少し鼻につくところだろうか。うまく書けないが、ものの考え方や行動原理に首をかしげるところが幾度かあった。ただ単にぼくと性格が合わなかっただけかな?好み的には前回のほうが上だが、今回はミスディレクションが巧みだったと思う。
 ますまこの作家が好きになった。今後の邦訳も期待したいと思う。