読書の愉楽

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板倉俊之「蟻地獄」

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 友人の修平と組んで違法カジノでイカサマをして大金をせしめようとした二村孝次郎。だが、うまくいったかに見えたイカサマは見破られ、修平を人質にとられた孝次郎は五日の期限を切られ三百五十万を用意しなければならなくなってしまう。いったいどんな方法で金を用意すればいいのか?孝次郎はあることがきっかけでとんでもない方法で金を得ることを思いつく。そして彼は一人、富士の樹海へと向かうのだが・・・。
 タイトルからもわかるように、本書は一人の男が窮地に立たされたときの必死の足掻きを描いている。蟻地獄に落ちてずるずると奈落の底に落ちてゆくちっぽけな蟻。だが、決して助かるはずのないこのトラップにも万に一つでも助かる方法はあるかもしれない。主人公の孝次郎はその必死のおもいだけで何度も窮地をくぐりぬけてゆく。短気で喧嘩っぱやい彼は、しかしここぞという場面で緻密な計算をし、打開策を練り上げる。

 

 四百ページ以上もあり結構な分量なのだが、これがなかなか読ませる。いったいどこへ物語が落ち着くのか見当もつかないのだ。はっきりいってラストは御都合主義が目立つ尻すぼみな感じなのだが、それまでの展開は大いに盛り上げられていて楽しめた。これ、映画にでもなったらかなりおもしろいのではないかと思う。内容的には一昔前のVシネマの匂いが濃厚で陳腐な印象を受けるのだが、それもまた良しと思えるテンションが維持されていたと思う。

 

 ただ、描写の問題として本書には数々の伏線+回収が繰り返されているのだが、そのアイディアは良いとしても描かれ方にあざとさが感じられるところが惜しかった。目的の部分をわざと書かずに(しかもそれを誇張して、これは伏線だと読者に知らしめておいて)間を措かずにネタをバラす。そのパターンが結構多くてちょっと食傷だった。

 

 それでも御都合主義が目立つとしても、話としてはきれいに着地しているから、残念感は少ない。板倉くん、お笑いだけじゃなくて小説でもどんどん活躍していって欲しいと思える本だった。