読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ひっそりと教えて……みんなの「怪談」

以前に投稿した記事ですが、またあらためて投稿いたします。
 
ぼくが聞いたことのある怖い話を、ここで紹介したいと思います。

怪談といえばよくタクシーの運ちゃんが、幽霊と遭遇された話を聞きますが、以下の話は実際にぼくがタクシーの運ちゃんから聞いた話です。

『わたし、いまはここでタクシー乗ってるんですが、以前は熊本の方でタクシー乗ってたんですよ。そんときに、ちょっとゾッとする体験しましてね。あれは、深夜にえらい郊外にお客さんを乗っけてった帰りのことでした。

そこらへん一帯は、家も少なくてね。

近くに自衛隊の駐屯地があって、道も地道で、人なんてめったに通らないとこなんですよ。ほんとにさびしい場所で、人なんていやしない。

でも、街中に帰るまでだいぶあるんで、誰かお客さんいたらいいなぁって思ってたんですよ。するとね、街灯もない道端に誰か立ってるのが見えたんです。

こんなさびしい場所に一人で立ってるなんて、ちょっと変だなと思ったんですが、近づいていくと納得しました。

その人は自衛隊員だったんですよ。制服着て、肩にライフルみたいな銃を抱えてるんです。

そういえば近くに駐屯地があったなあ、なんて呑気に近づいていくと、その人がサッと手を上げたんです。

正直うれしかったですよ。客いないかなって思ってたところですから。

で、車止めてドアを開けてあげたんです。

その人は、無言で乗り込んできました。顔色もちょっと悪い。

「お客さん、駐屯地までですか?」

わたし、気利かして言ったんですよ。するとその人うんうん頷くんです。

車を出してしばらくすると、その人、こう、とんとんってわたしの肩を叩くんですよ。

へ?って振り返ると、そのお客さん、はじめてしゃべったんです。

「煙草もらえますか?」

わたし、持ってたんで、いいですよっつって一本あげたんです。

すると、その人スパスパ吸いはじめるんですけど、その吸い方が普通じゃないんです。

汽車が煙はくみたいに、さかんに煙を吐きだすんです。

そのまましばらくはしってると、また、肩を叩かれました。

振り返ると

「もう一本いただけないですか?」

わたし、ちょっと驚きましたよ。だって、さっきあげた煙草、まだ吸い終わってないんですよ。

でも、お客さんだからね、わたしもう一本あげたんですよ。

すると、お客さん、両手に二本持って、両方ともスパスパやるもんだから、車ん中煙りだらけになっちゃったんです。

よっぽど煙草が吸いたかったんだなと思いましたよ。

そうこうしてるうちに、駐屯地に着きました。

門のところに隊員さんが立ってます。

少し手前に車を止めて、振り返ると誰もいないんです。

ほんと、ああいう時って怖いとかいうんじゃなくて、キツネにつままれた感じで一瞬ワケがわからんようになりますね。

だってそうでしょ?いままで乗っけてた人が、一瞬で消えてるんですから。

後ろの座席を見るとね、1メートルくらいの木の枝と、煙草が二本そろえて置いてありました。

わたしは、ワケわからんまま門のところ行って、立っている隊員の人に話したんですよ。

いま、ここの隊員さん乗っけてきたんだけど、着いた途端いなくなったって。

すると、その隊員さん、変な顔してたんですが、とにかく中に入ってくれということで、事務室みたいなところに通されたんです。

また別の人がやってきて、わたし、またおんなじ事くり返して言いました。

すると、その人、そんな隊員はいないって言うんですよ。この時間に外出してる者はいないって。

でも、こっちも必死ですからね。そんなことない、確かにここまで乗せてきたって言い張りました。

そしたら、その人、じゃあ、あなた、その隊員の顔みたら、わかるか?って言うんですよ。

いままで乗せてきた人ですからね、わたしも顔は覚えてますよ。だから、わかるって言いました。

その人書庫みたいなところから年鑑みたいなもの出してきて、この駐屯地にいる隊員はみんなここに載ってるから確認してくれって言うんです。

だから、わたし見ましたよ。かなり分厚い本だったけど、一枚一枚丁寧にめくって見ていきました。

でもね、載ってないんだ。ズラーッと隊員の顔写真が並んでるんですが、最後のほうまできてもあのお客さんの顔がないんですよ。

おかしいなと思いながら、なお見てたんですが、ほんとの最後の方になってようやくあのお客さんの顔があったんですよ。

「あっ、この人、この人、わたしが乗っけてきたの、この人ですよ!」

うれしくなって、ちょっと大きな声で言いました。

その人、本を受けとってわたしがいう人の写真見て、こう言いました。

「それはないよ、運転手さん。この人、ここにいないもの」

喜びも束の間ってやつですね。わたし、ちょっと腹が立って突っかかって言いました。

「でも、その本に載ってる人、みんなここに居るんでしょ?あなたさっきそう言ったじゃないですか」

すると、その人残念そうにこう言うんです。

「ええ、この年鑑に載ってる隊員は、みんなこの駐屯地にいる隊員ですよ。でもね、あなたが乗っけてきた人だと言ってる人のページね、殉職者のページなんですよ。亡くなってるんです」

そう聞いた途端、一瞬にして顔色がなくなるのが自分でもわかりました。ほんと、あんな怖い思いをしたの初めてでしたよ。

その人から年鑑受けとって、あらためてよく見ると、わたしが乗っけてきたお客さん、7年前に演習中に戦車に轢かれて亡くなったと書かれてありました。

それ読んで、わたし、手が震えてとまらなくなったんですよ』

以上が、ぼくが実際にタクシーの運ちゃんから聞いた話です。

どうですか?なかなか怖い話だったでしょ?

この話聞いた日、一人で帰る夜道の、どんなに怖かったことか。