五編の短編が収録されているのだが、連作となっていてそれぞれが大学の奨学係の女性職員が斡旋するアルバイトを巡る話となっている。
まず、この女性事務員が謎めいた存在なのだ。彫りの深い整った顔立ちなのにも関わらず、常に無表情で無機質な印象を与える。所作にはまったく無駄がないのだが、ただ歩くとき右足が床にすれる。
この悠木さんが、あたかも神のごとくに采配をふるって、学生たちに半ば強引に奇妙なアルバイトを紹介していくのである。
それは、死者と手を繋いで見取るバイトであったり、姿の見えない獰猛なペットに餌を与えるバイトであったり、とある人物が腕によりをかけた豪華な食事を食べるだけのバイトだったりするのだが、すべてにおいて悠木さんは事の次第を一から十まで把握して結果もわかった上で行動しているのである。
それぞれの物語はミステリっぽい鼻薬が効かせてあったりして、なかなかおもしろい。そして、第三話の『アタエル』以外はすべてラストにおいてささやかな感動をよぶ趣向となっている。
もともとこの人は筆力のある人なのでそれぞれの短編が実にうまく描かれており、読ませるという点では文句のつけようがない出来なのだが、いかんせん話のつくりが小さい印象が強く残ってしまった。
悠木さんという奇妙な事務員を中心に据えて世界を構築しているにも関わらず、それが拡散することも増殖することもなくこじんまりと収束してしまっているのだ。これをシリーズ物として考えるのなら、これから後に語られる物語に完結した世界観を託すこともできるのだろうが、これがこのまま終わってしまうというのならいかにも尻すぼみな印象しか残らない。なにより悠木さん自身の謎がまだ残っているのだから、この話はこれからも続けていって欲しいのだが、どうなのだろうね。
というわけで、この人はいまのところデビュー作の「夏光」が一番気に入っている。さて、次はいったいどんな話を書いてくれるのだろうか。いまから楽しみだ。