本書はおもしろかった。中篇集ということで四篇収録されているのだが、それぞれバラエティに富んで飽きさせない。だがみなさん、くれぐれも注意して頂きたい。本書には猛毒が含まれております。このわたくしめが、本書の中の一篇を読んで激情のあまり嗚咽を洩らしそうになったぐらいなのだ。
では、各篇簡単に言及していこう。
「閉店時間」
これはケッチャムにしては非常におとなしい作品。本書の導入部として万人に受け入れられる作品だと思う。また9.11以後のニューヨークを描いた作品を読んだのも初めてだったので、新鮮だった。閉店間際のバーを狙う強盗と不倫の関係を断った男女が絡み合い、最後には真っ赤な花が二つ咲く。
「ヒッチハイク」
題名からも不穏な雰囲気が溢れているが、この作品は予想以上にフルスロットルで爆走するバイオレンス・アクションだ。あの〈ナイトヴィジョン〉に書き下ろされた作品ということで、本書の中でも一番長い作品なのだが、あっという間に読み終わってしまう。告白すると、嗚咽を洩らしそうになったのはこの作品。いまでもその場面を思い出すと、気持ちが萎えてくずおれそうになってしまう。
「雑草」
女性を監禁してレイプしまくるカップルを描いたケッチャムの本領発揮の一作。まったく救いのないストーリーがいっそ清々しい。感覚がおかしくなってしまったのか、そこはかとないユーモアさえ感じてしまった。勧善懲悪になってないところがミソである。
「川を渡って」
この中篇集の中で「ヒッチハイク」と競うリーダビリティなのがこの作品。めずらしいことに、これはウェスタンである。だがそこはケッチャム、ただのウェスタンではなくそこにはホラーが侵蝕してくる。ウェスタンとホラーという相反する二つの要素を見事に融合させる手腕もさることながら、それをこれだけ完成された娯楽作にまとめあげてしまう豪腕に脱帽。これは傑作である。
というわけでこの中篇集、万人に薦められる本ではないがホラーとミステリがなにより好きで、鬼畜系にも怖気をふるわないというツワモノの方には自信をもってオススメする次第であります。