読書の愉楽

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野村美月「文学少女と神に臨む作家(上下)」

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 ようやく読み終わった。これだけ一つのシリーズを根気よく読み続けたことって、あまりないから自分を褒めてやりたい。だって、このシリーズ全部で8巻もあるのだ。順次追っていかなかきゃ、長いぜまったく。大団円にふさわしく、今回は大盤振る舞いの上下二巻物となったわけなのだが、今回のテーマが文学少女そのもののミステリなのだから、これはいたしかたないこと。いままで謎のヴェールに包まれていたあの天野遠子の秘密が一挙に明かされるのだから、これだけの分量は必要なのである。

 

 だが、毎回のことながらなんとも辛い話である。辛い上に凄惨で酷いところもあったりして、なかなか強烈な印象を与える。このなんともやわらかく、やさしくてきれいな表紙に騙されてはいけない。この、中にはとっても辛くて厳しい話が詰まっているのである。

 

 また、主人公である心葉の言動にやきもきしてしまうのもいつもの事。今回はさらに輪をかけて、彼の行動につっこみを入れてる自分がいた。君、そんなことではいかんよー、ぼくのななせちゃんが泣いちゃってるではないですか!どうして女の子にそういう思いをさせるのかな。はっきりいって理解に苦しんでしまうよ。

 

 とにかく、上下巻であるにも関わらずそのリーダビリティはなかなかのもので、あっという間にページが進み、またたく間に読了してしまった。不穏な空気とこそばゆい甘い雰囲気が同居するという、奇妙な世界観と根っこの部分ではどんな悪人でも善人なのだというある意味お目出度い、でもかなり救いのある作者の人物観が相乗効果をあげ、このシリーズは忘れがたい印象を与え続けてくれた。

 

 また、読書への深い愛情と古今の名作に対するリスペクトは読むものに道を開き、さまざまな可能性を示唆してくれた。ラノベという狭い囲いの中で、これほど大人を夢中にさせてくれた力量は素晴らしい。

 

 まだまだ余波は続くみたいだが、とにかく本編はこれにて終了した。どこへどう行き着くのか少々不安でもあったが、この幕の引き方なら文句はない。結局、文学少女に関する最大の謎についてはうまくかわされたみたいな感じなのだが、それはそれでいいか。これだけ愉しませてもらったのだからね。