読書の愉楽

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鈴木光司「エッジ(上下)」

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 鈴木光司「リング」のシリーズで燃え尽きたと思っていたので、「バースデイ」以降はまったく読んでなかったのだが、今回この「エッジ」はなんとなく気になって久方ぶりに読んでみようかと思った。

 読んでみればわかるが、本書はホラーではない。仕組みが理解できた段階でSFだと誰もが感じることだろう。そういった意味では「ループ」と似たテイストである。

 だが、物語の導入部とそれ以降の展開の仕方はホラー・テイストが遺憾なく発揮されている。世界各地で起こる不自然な失踪事件。まるで、一瞬で消えてしまったかのようにこの世からいなくなった人たち。

 フリーライターの栗山冴子は、一家4人が忽然といなくなってしまった「藤村家失踪事件」の真相を追うことになるのだが、かのマリー・セレスト号事件と同じ不気味な印象を与えるこのケースは調べれば調べるほど謎は深まるばかり。どの角度から考察しても真相には辿りつけないのである。そうこうしているうちに世界各地で未曾有の現象が勃発、いったい世界は地球はどうなってしまうのか・・・・・というのがおおまかなアウトライン。

 これがなかなか読ませる。とてもおもしろい。不気味な失踪事件がことさら不安をかきたてる。いったい彼らの身に何が起こったのか?彼らはどこへ消えたのか?とにもかくにも彼らは生きているのだろうか?

 最終的にこの現象の真相が暴かれるのだが、ここへきて読者はいきなり放り出されることになる。まさかそんなことになっているとは思いもよらなかった。人によっちゃこの真相に出くわして、とんでもないB級作品もしくはバカミスだと感じる人もいるかもしれない。でも、ぼくはけっこう好意的に受け止めた。素晴らしい出来だとは思わないが、この結末も悪くないとは思う。少々舌足らずなところがあり、個人的には最低あと100ページは書き込んで瑣末なことにいたるまですべて拾い上げて欲しかったのだ
が、こういう感覚に包まれるという経験はこの人独特のものなので、これはこれで希少な体験だ。かつて「ループ」で感じた壮大なホラ話のノックアウト感覚とでもいおうか。

 というわけで久しぶりの鈴木作品、『年間ホラー傑作選』には選出できないが、そこそこおもしろかったということで〆にしたいと思う。こういう話を真面目に書いてしまう彼のエネルギーには敬服致します。