毎回同じような悲惨な事件が頻発し、ワーカホリックな我らが最低下品ジョーク連発親父のフロストが右往左往、東奔西走、粉骨砕身しながらぜいぜいはあはあと事件を追いかける話がどうしてこんなにおもしろいのか?
言うまでもなくそれはひとえにフロスト警部のバイタリティあふれた最強のメンタルにささえられたアグレッシブかつポジティブな直情的行動力と、行き当たりばったりな直感にささえられたまるで根拠のない捜査方法と、逆境をものともしない悪あがきを上塗りした厚顔無恥ともいうべき不敵さがまねくカオス的なデントン署の悪夢の日々が目がまわるほどの忙しさでフルスロットル加速していくからで、一度ページをひらけば誰もが瞬く間に物語の中に入りこんでしまい、抜けだすことはかなわない面白さだからだ。
ふう。一気呵成に書いちゃった。シリーズも5作目ともなれば、けっこうマンネリ感が漂っていたりして、ある意味惰性で読んでるってこともあるが、このフロスト警部シリーズにかぎっては決してそんな罰当たりな態度にはならないのである。
今回も幼児性愛、連続娼婦虐殺、怪盗枕カヴァー、何十年も前の白骨死体、それにくわえてショットガン強盗に泥酔フーリガン御一行様とまるで節操のない事件のオンパレード。それぞれが行きつもどりつしながら上下巻を縦横無尽に埋めつくす。
たまらないね。これだからフロストシリーズはやめられない。フロストを取りまく人間関係も相変わらず充実していて、保身と体面の権化である小言眼鏡猿のマレット署長や、やることなすことすべていい加減で失敗ばかりの『芋にいちゃん』モーガン刑事、美人ながらなによりも昇進を優先する『張り切り嬢ちゃん』リズ・モード警部代行にデントン署の顔である受付のビル・ウェルズ巡査部長などなど個性的な脇役には事欠かない。
モジュラー型の警察小説としての構造もいつも通りの安定感で、どっしりと落ちついたプロットは揺ぎもしない。これだけのボリュームを一瞬もダレることなく読み切らせてしまう手腕には脱帽だ。
毎回思うことだが、本シリーズは至福の読書を提供してくれる。ほんと最高におもしろい最強の警察小説なのだ。
残念なのは、これがあと一作を残すのみとなってしまったこと。ああ、はやく読みたいけど、読んでしまうのが惜しい気もする。ま、でもあと5年くらいは翻訳が出ないだろうけどね。