読書の愉楽

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今野敏「隠蔽捜査」

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 この人、最近めきめきと頭角あらわしてきてませんか。というわけで遅れてならじとあわててこの評判のいい警察小説を読んでみたというわけ。といっても文庫落ちだからすでに遅れをとってるんだけどね。

 で、感想なのだがこれが評判に違わず良かった。読み始めた当初は、本書に登場するあまりにも特異な主人公に驚き、いまいちノレなかったのだが、読み進めていくうちに物語に絡めとられてしまった。

 本書の主人公竜崎伸也は警察庁長官官房の総務課長である。警察機構に関してはなんにも知らないぼくだが、どうやらエリート中のエリートで所轄の刑事からしたら、雲の上の人的な存在らしい。

 竜崎自身もそのことは過剰なくらい意識していて、エリート思想甚だしい。当初はそこのところが鼻につき、なんて嫌なやつが主人公なんだ!と思ったりした。曰く『東大以外は大学じゃない』とか『家庭のことは妻に任してある』とか『官僚の世界は、部下であっても決して信用してはならない』とか、まったくこいつは何がおもしろくて生きてるんだと敵対心が芽生えてきたほどだった。

 だが、その反発する気持ちがだんだんと傾いていくことになる。この竜崎という男は、自分の保身ばかりを考えるエリートキャリアではなく、本当に公務員としての職務を最優先に考え、国家のためなら死をも辞さないと言い切る硬派な男だったのだ。不正や隠し事を一切せず、いってみれば正論のみで己を貫くのが竜崎の在り方なのだ。

 この良く言えば清廉潔白、悪く言えば堅物な男を主人公にもってきたことによって、いったいどういうドラマが展開されるのか?これがまた安易なのだが、なかなか読ませるのである。本書の読みどころはそこにある。こんなに職務に忠実な人物が窮地に立たされたとき、いったいどういう判断を下すのか?そして彼のとった行動はどういう結果をまねくのか?

 読み始めは嫌な人物だと思っていたが、読了したいまでは、ぼくはこの竜崎に魅力を感じてる。それほどに本書のラストは清々しくて気持ちがいい。

 これは本当に魅力的なシリーズだ。第二弾である「果断」を読むのが待ち遠しい。