読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

乙一「ZOO1、2」

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 いまさらながらなのだが読んでみた。刊行当時、結構話題になった本だ。これの前に出てた「GOTH」も未読だし、これ以降に出た本も「銃とチョコレート」しか読んでないし、デビュー作含めたら本書で三作品ということになる。

本書には単行本未収録作品を含めて11作品おさめられている。収録作は以下のとおり。

ZOO 1

◇ 「カザリとヨーコ」

◆ 「SEVEN ROOMS」

◇ 「SO-far そ・ふぁー」

◆ 「陽だまりの詩」

◇ 「ZOO」


ZOO 2

◇ 「血液を探せ!」

◆ 「冷たい森の白い家」

◇ 「Closet」

◆ 「神の言葉」

◇ 「落ちる飛行機の中で」

◆ 「むかし夕日の公園で」(単行本未収録作)

 こうして、バラエティーに富んだ一連の作品を読んでみて感じたのは、乙一って結構ナイーヴな暗さを内包した作家なんだなということだ。なんというか、人の目を見てしゃべれないような、おどおどしたネガティヴな姿勢がそこかしこに垣間見られる。別にそれを否定的にとらえているわけではないのだが、この作品集を読んで、それを強く感じてしまった。作品としてはやはり『1』のパートの方が単純におもしろく、いわゆるキャッチーな作品が並んでいる。「カザリとヨーコ」は出だしの一行から、がっちり心をつかまれてしまうし、「SEVEN ROOMS」はホラー・ミステリとして秀逸な展開で、ラストのなんとも形容しがたい哀切な状況は壮絶でせつない。「SO-far そ・ふぁー」は、これまたナイーヴな感情の爆発した作品で、両親を繋ぎとめようとする幼い子供の姿が胸を打つ。「陽だまりの詩」は、終末SF。凡庸の一歩手前でふんばるところが乙一のいいところ。「ZOO」は、表題作になっているにも関わらず、この中では少しインパクトに欠ける。ちょっとついていけない感覚だ。ぼくもあのなんともいえない奇妙な「ZOO」という映画を観たことがあるが、あの映画のインパクトに比べれば、この作品は数段落ちる。

 『2』パートは、めずらしく陽性の作品「血液を探せ!」で幕を開ける。これはコメディー色が強調されていて、悲惨なのに笑えてしまうというスラプスティック仕立てがおもしろかった。「冷たい森の白い家」は、イメージ先行型の作品。それのインパクトだけで、物語が成立している。良くも悪くも、想像力豊かな人のみ、かなり影響を受けるだろう。「Closet」は、どちらかといえばあまりヒネリのないミステリ。ミステリ好きの人なら、すぐにわかってしまう仕掛けが堂々と使われている。「神の言葉」は、このアイディアでこういう展開にするところが乙一っぽくて良い。ぼくだったら、絶対エロ系にはしっちゃうだろうな。「落ちる飛行機の中で」は、いわゆるシチュエーション・コメディの手法にのっとった作品だが、ラストが乙一印満開だ。現実味のない世界が急にリアルな世界に豹変してしまう。単行本未収録の「むかし夕日の公園で」は、ショート・ショートなのだが、これが一番良かったかもしれない。こういう曖昧な感覚は大好きで、どことなく夢の論理が感じられるところなど非常におもしろかった。

 というわけで、遅まきながら読ませていただいた乙一短編集、総じていうなら楽しめた。しかし、一抹の不安が無きにしも非ずだったのも事実だ。それは、とても危うい均整でもってあちらとこちらを行き来している。このバランスが崩れたときがちょっと怖いなと思ってしまった。