読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

イギリス〈4〉集英社ギャラリー「世界の文学」〈5〉

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 ちょっと変則だけど、今回はこの中に収録されているフラン・オブライエンの「ドーキー古文書」を紹介したい。無論、他の作品も重要なのだがぼくはいまのところ本書の中では、これしか読んでないのだ。それともう一点、こんど国書刊行会から『ドーキー・アーカイブ』として10巻の強力な翻訳小説が刊行されるみたいなので、それを記念して本書を紹介したいと思う。

 みなさんも御存じのとおり、フラン・オブライエンといえば奇想の作家なのであります。本作も奇想にかけては右にでるもののいない独創的なもので、聖人が甦るし、自転車と人間の分子的融合を懸念する警官が登場するかと思えば、地球の破滅を目論む科学者と大気を絶滅する物質D・M・Pなんてのが出てくるし、あげくの果てにはあのジェイムズ・ジョイスが登場してバーテンダーやったりするんだから、節操のないことこの上ないのだ。

 まあ、奇想テンコ盛り。本当のところ、手放しでそれを喜んでいる場合ではなく、それらが物語の構成上うまく機能しているかといえば、そうでもなくいささか大風呂敷を広げた感はぬぐえないのだが。

 でも、これが読んでみると結構楽しめるのだ。あれやこれやがあって結局何が言いたいんだ?と素に戻ってしまうのだが、ラストで描かれるある場面から、ああそうかそれを暗示して〆とするんだなとなかば強引に納得させらて物語は幕を閉じるのである。

 斯様に破綻している話ではあるし、「第三の警官」とくらべれば見劣りするかもしれないが、ぼくは結構こちらの方が気に入ってたりするのである。

 個人的には、日本の風土と妙にマッチングするなあといつも感心するアイルランド人の手になるこの小品、みなさんにも是非読んでいただきたい。古い作品のはずなのに、とんでもなく刺激的なんですよ、これが。

 で、最後に今度刊行される国書刊行会の『ドーキー・アーカイブ』のラインナップを紹介しておこうと思う。ほとんどが聞いたことない作家なので、期待値は高まるばかり。編集が若島正横山茂雄というのも微妙に好奇心を煽ってくれます。


 「虚構の男」 L・P・デイヴィス

 「人形つくり」 サーバン

 「鳥の巣」 シャーリイ・ジャクスン

 「さらば、シェヘラザード」 ドナルド・E・ウェストレイク

 「ニシンの缶詰の謎」 ステファン・テメルソン

 「救出の試み」 ロバート・エイクマン

 「アフター・クロード」 アイリス・オーウェン

 「ライオンの場所」 チャールズ・ウィリアムズ

 「煙をあげる脚」 ジョン・メトカーフ

 「誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?」 マイクル・ビショップ


 これ、みんなサンリオSF文庫の取りこぼし作品か!と思うくらい変な本ばかりでしょ?中身を知りたい方は、いまなら大きな書店に行くと国書刊行会が発行している「ドーキー・アーカイブ」を紹介している小冊子がおいてあるので、ご確認ください。若島氏と横山氏の刊行記念対談が載っていて読み応え抜群です。