読書の愉楽

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ニコール・クラウス「ヒストリー・オブ・ラヴ」

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「本が好き!」に登録して、初めての献本が本書「ヒストリー・オブ・ラヴ」だった。

 

本来ならタイトルだけで敬遠してしまうところなのだが、本書は帯を見てちょっと待てよと思った。『壮大な運命と邂逅の物語』『その物語はいつか輝く』。これらのコピーを見て心を動かされた。

 

タイトルから連想するような単純な恋愛小説ではなさそうだ。内容を見てみるとさらにその確信が強まった。

 

本書は一冊の本が巡り巡って人々を繋ぎとめ、知らず知らずのうちに運命を変えていく物語である。

 

まず登場するのがレオ・グルスキというポーランド移民の80歳の老人。彼はナチスの侵攻から逃れてアメリカに渡り、錠前屋として生計をたて現在は心臓病という爆弾を抱えて細々と暮らしている。

 

もう一人登場するのが14歳の少女アルマ。彼女の名前は「愛の歴史」という小説に出てくる少女の名前から名づけられた。彼女は夫を亡くして自分を見失った母と自分のことをユダヤ教の『隠れた義人』だと信じている風変わりな弟の三人で暮らしている。アルマは母親を立ち直らせるべく、素敵な相手を見つけようとあれこれ画策しているのだが、その過程で両親が大切にしていた「愛の歴史」に登場する少女が実在の人物だと確信するようになる。

 

そしてもう一人、その「愛の歴史」を書いたツヴィ・リトヴィノフというこれまたポーランドから南米に移民した男の物語が語られていくことになる。

 

本書の構造はあやうい均整を保っている。上記の三者の物語が交互に語られていくのだが、物語の終りに近づくまで、この三つの物語がどう交錯していくのかすんなり見えないようになっている。しかし、そこに混乱はない。それぞれの物語が読み手を惹きつけてはなさない魅力に溢れているから、知らず知らずのうちにラストまで運ばれて縺れた糸がすっきりと解れていくように全体がみえてくるのである。

 

大きくうねる波がすべてを呑みつくすように運命に絡めとられ、思惑も願いも希望も果たせなかった思いもみんなひっくるめて同じ場所にストンと落ち着いてしまう。そんな読後感だった。

 

世界中すべての人が本書を好きだったらいいのに。そう思える本だった。