本書が刊行されたのは1993年と、かなり昔だ。この画像は昨年出た新装版の写真であって、ぼくが読
んだのは単行本だった。
そんなことは、どうでもいいか。とにかく当時、ぼくは本書を興味本位で読み始めた。だって、普通の女
子大生の右足の親指がある日突然ペニスになってしまうなんて、いったいどんなエロい話が展開していく
んだ!と思って当然ではないか^^。
でも、当初の興味本位がいつしか登場人物にどっぷり感情移入させられ、最後には深い満足感に幸せな気
分になって読了していた。たぶん当時の世の多くのスケベな男子はぼくと同じ過程を辿ったに違いない。
でも、それでいいのだと思う。こういう良書は広く読まれるべきなのだ。
確かに、本書には性愛描写が数多く登場する。だが、それは決して淫らで扇情的なだけでなくとても素直
に受け入れられてしまうものだった。といってもこれは男の目で見た判断であって、それがそのまま女性
の方に適用されるかといえば、それはなんともいえないのだが^^。描かれる場面は、ほとんどがアブノ
ーマルな性行為だから、それを嫌悪する向きもあるのかもしれない。でも少なくともぼくはそれをポルノ
ちっくには感じなかった。
主人公である一美が考える男と女の在り方、性行為の在り方、人との付き合い方など等も、おそらく多く
の人が日常生活の中で素通りしてしまって深くは考えないものばかりで、それをとことん考え抜く姿に感
動すらおぼえてしまった。
登場人物たちもそれぞれ個性的で存在感があり、ようするにキャラがたっている。本書に出てくる人たち
はそのほとんどがフリークなのだが、なかでも春志のキャラは新鮮だった。彼の天使のような言動は、時
に心を洗われ時に憤慨した。
足の親指がペニスになってしまった女の子という童話のような設定の話を、ここまで正統に且つ物語的に
数々の問題と目からウロコの落ちるような意見を織り交ぜながら描ききった手腕に脱帽した。
こういう風に大見得切って、大ボラ話を大真面目に描いてしまうキュートな松浦女氏に拍手。
ぼくは本書を読んで日本も見捨てたものではないなと思った。こんな作家のいる日本に生まれて、ほんと
良かったと思った。親指ペニスという設定から本書をただのポルノだと思って敬遠してる人がいたら、ど
うか思い止まってもらいたい。本書は、なかなか素敵な寓意譚なのだから。