子猫殺しで一時話題になった作家である。
最近はまったく読んでないのだが、本書を読んだときは素直に感心した。
まず、明治末期の越後という雪国を舞台にしたところに惜しみない賛辞を送りたくなった。
この見たことも聞いたこともない、まるで異国のような世界を現代に甦らせた手腕には唸ってしまった。
いってみれば本書を読めば、いっぱしの雪国通になれてしまうくらいの濃い内容なのだ。
また、この頃の坂東眞砂子といえばまだまだホラー作家という印象が強かったのだが、本書はそんな彼女
の持つ従来のイメージをきれいに払拭した作品としても記憶に残るものとなっている。
とにかく、本書のパワーは並大抵のものではない。単純なぼくなどは、実際『山妣伝説』の真相はほんと
うに本書に描かれているとおりだったのではないだろうかと、半ば本気で信じかけたくらいだった。
また、ふたなりの妖しい美しさや山神を信じる雪国ピープルの風習等々そのイメージの奔流の鮮烈さ、
勢いにはただただ圧倒されるばかりだった。
だが、これだけ感心し尚且つ興奮して読了した坂東作品だったのだが、彼女の本は本書以降見事に一冊も
読んでない。どうしてだろう?本書を読了したときには贔屓にしょうと固く心に誓っていたのに。