読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」

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とても静かな小説だ。だが、とても静かなのにとても激しい小説でもある。

主人公であるキャシーの一人称で語られるこの静謐な物語は、淡々とした語り口ながら一筋縄ではいかな

い物語だ。読者は、彼女の語りに耳を傾けているかのような感覚で読み進めることになる。しかし、そこ

には多くの謎が隠されている。何かが進行していて、行きつく先にはとんでもないものが待っているんじ

ゃないかと思えてくるのだ。

彼女が語る全寮制施設での生活。とにかく彼女は回想している。幼い日々を過ごしたあの施設での出来事

を。友人との楽しい思い出や確執、いじめられっ子の男の子との交流、施設にいたいろんな先生たちの授

業の様子。普通に描かれるどこにでもあるような風景。だが、その思い出の中に様々な疑問が浮上してく

る。友との間で交わされた噂、授業の時に先生が漏らした一言、定期的に施設にやってくる外界の人々。

内容については、これ以上は書けない。また書いてはいけないとも思う。

とにかく彼らの運命の残酷さに打ちのめされた。この感動とは別の次元の心に圧しかかってくる真相の重

みは、長くぼくの中に留まりつづけるだろう。

イシグロ作品はこれで二冊目だが、どうも凄い作品ばかり読んでいるように思う。早々に他の作品も読ん

でみなくてはならないだろう。今回この作品の評判が良かったからか、長らく絶版だった「浮世の画家

がハヤカワepi文庫から復刊された。これを機に「充たされざる者」も復刊されるといいのだが。