古本屋で背表紙を見かけて、おっ!『三人吉三』じゃないかと驚いた。表紙を見てみると藤田新策ではないか。この作者はまったく知らなかったのだが、俄然興味が湧いてきた。それによくよく見ると、この表紙なんだかおかしい。娘さんが空飛びながら火吹いてるのが気になるではないか。手前の坊主もなんだか怪しいし。というわけで値段も100円だったし迷わず購入、早速読んでみた。
いやあ、おもしろかった。はちゃめちゃだ。こんなに楽しい時代ものは久しぶりだ。
なにがおもしろいといって「三人吉三」を演じるこの表紙の三人が最高だ。旗本の子息でありながら、生きる目的が見出せず無為な日々を送る脩三郎は、悪法名高い生類憐みの令を撤廃させるべくお犬様を辻斬りし、羅宇屋(煙管屋)のひとり娘お吉はお江戸の防火体制の甘さに業を煮やし火を放つ。そして自寺で賭場を開くなまぐさ坊主の吉兆は、それら二人の所業を格調高い落書でもって世に知らしめる。
彼らの主張は、江戸の市民に拍手喝采で迎えられた。世直しが目的の「三人吉三」の誕生である。
この三人の巻き起こす騒動に加え、元禄の世といえば「忠臣蔵」である。
物語は赤穂浪士の堀部安兵衛も巻き込んで、あれよあれよと盛り上がっていく。
う~ん、しかし本書はオフビートなんだな。この感覚は読んでみないとわからない。作者は、時代小説で「俺たちに明日はない」をやってみようとのコンセプトのもと本書を書きあげたそうである。
なるほど、その狙いは当たらずとも遠からずという感じだ。奔放な筋運びでありながら、底辺には痛切にがむしゃらな疾走感があふれている。オフビートでありながら、激しい刹那的な激情が流れている。
一読忘れがたい高揚感が残るのも、それゆえだろう。
それにしても、ラストの赤ん坊のくだりはせつなかったなぁ。これは、はっきりいって堪えた。まさか、こんな展開になるとは思ってもみなかった。やはりこの作者只者ではないと痛切に感じた。
う~ん、まったくもって気に入った。これからは贔屓にしたいと思う。こうして、また追っかけなければならない作家が増えてゆくのである(笑)。