読書の愉楽

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小林恭二「悪への招待状 幕末・黙阿弥歌舞伎の愉しみ」

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 歌舞伎を通して江戸の風俗を味わう好読物である。

 

 それも爛熟期の江戸ではなく、大きく変わろうとしている頽廃の香り高まる幕末の江戸である。

 

 世は風雲急をつげ、世相は乱れ、庶民は日夜遊興に耽ることばかりを考えている。

 

 今の日本では考えられない世界だ。

 

 でも、とても魅力ある世界でもある。

 

 そういう点で、江戸というのは特異な時代だ。その当時にしても上方(大阪、京都)とはまったく違った世相だったのだ。

 

 本書を読めばそういった事情が手にとるようにわかる。その上歌舞伎の傑作「三人吉三」の魅力ある世界にもどっぷりと浸れる。この黙阿弥の手になる白浪物の傑作歌舞伎は、現在では序幕の「大川端」だけが単独で上演されることが多いようだが、これは『こいつぁ春から縁起がいいわぇ』というお嬢吉三の名セリフがあるかららしい。この場だけをみれば、なんとも華々しい絢爛な話のように感じるが、「三人吉三」はなかなか陰惨な話なのである。親殺しや、兄妹相姦なんて畜生にも劣るエピソードが横溢し、めぐり巡った因果が運命を左右するさまは、いっそ清々しいくらいである。因果応報という言葉がこれほど身にしみる物語もめずらしい。また、それがこの「三人吉三」のおもしろさでもあるのだ。

 

 とにかく本書はその魅力溢れる歌舞伎の世界を初心者にも余すところなく伝えており、読み出したらやめられないおもしろさだった。語り口も平易でわかりやすいし、これなら、中学生ぐらいの子でも充分読めるだろうと思われる。未読の方は臆さず手にとって頂きたい。懸念するほどなく簡単にタイムスリップすること請け合いである。