おもしろかった。でも、これがあの山口雅也の作品だと思うと物足りなく感じる。
小学6年の陽太が経験するひと夏の冒険を描いているのだが、話の展開上でぼくの思ってる方向から逸脱していったのが、その要因かと思われる。
まさかねえ、そんなことになるとは思ってもみなかった。まして、それが密室殺人の真相になっちゃうとは・・・。子どもを想定して書かれているのならこれでいいのかもしれないが、それだと本書の構成のアンバランスさが強調されてしまう。
どういうことかというと、陽太が夏休みの自由研究の課題として選んだのが近く大改築がおこなわれる東京駅だったのだが、本書ではその東京駅にまつわる歴史や内部の構造などがまことに詳細に語られるのである。この部分は、はっきりいってクドい。本筋にまったく関係ないわけではないから必要な場面なのだが、それにしてもクドすぎる。子どもにとったら退屈な部分だろう。
それなのに、本筋では真相部分がああいうことになってるというのがいかにもアンバランスな印象を受けるのだ。どこまでを許容範囲とするかは個人差もあるし、明確な線引きがされてるわけでもないからこれはまったくの独断と偏見である。ぼく個人の意見だ。しかし、読み終わって全体を反芻してみると自然とそういう印象になってしまった。
ラスト近く、陽太の叔父が残す別れの言葉もなんとなく鼻についてしまう。なんか、子どもに対する教示としてとってつけたような印象を受ける。
とまあ、こう書いてくると全否定のような感想なのだが、最初の言葉通り本書はおもしろかった。
吸血鬼の生態についての部分など新たな視点という感じで目からウロコだったし、厳密にいえば本書の設定は山口氏の得意とする『ありえない状況で起こるミステリ』を踏襲しているのである。
出来としては最悪だけどね。