読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

世界の出口

『世界の出口』が見つかったとの報道に全世界の人々が興味津々である。聞くところによると、『世界の

出口』はイエメンにあるという。

連日テレビでは、『世界の出口』情報が報道される。

『世界の出口』は青い色の大きな穴で、近づくと吸い込まれるのだそうだ。

だから、誰も出口には近づくことができない。いままで、136人の人が世界の出口に呑み込まれたそう

だがその人たちが何処に行ったのかは誰にもわからない。

その『世界の出口』をくぐった人の中にぼくの叔父もまじっていた。

叔父は考古学者で最近は紅海の近くで塩になったロトの発掘を行っていたそうだが、イエメンの国際大学

の要請をうけて、『世界の出口』の調査を行っていたらしい。

あまり会うこともなかったから、叔父がいなくなったと聞いてもぼくはそれほど哀しまなかった。

それより『世界の出口』をこの目で見てみたいという思いが日に日に強くなっていった。

とりあえず、ぼくは必要最小限の荷物を携えて、イエメンに向かった。

イエメンは、とてもホコリっぽくて奇妙な草の匂いがする辺鄙な国だった。

街を歩いていて驚いたのが、カブトムシを食材として売っていたことだ。

蒸し焼きにして、柔らかい腹の部分を食べるのだそうだ。酸味と甘味が絶妙で、一度食べればやみつきに

なるらしい。とんでもない話だ。ぼくはそんなもの絶対食べない。

『世界の出口』は5キロ四方で封鎖されており、一般人であるぼくが中に入ることは叶わなかった。

近くにはアメリカとオーストラリアとイギリスの連合軍駐屯所が設置されており、24時間体制で警戒さ

れていた。どうにか潜入できないものかと歩きまわったが、アリの子一匹入りこむ隙はなかった。

一番太い幹線道路に設置されている第一ゲートに行ってみた。

ゲートに近づいていくと、前に立つ二人の兵士がいる。片方は黒人だ。

ぼくは流暢な英語で話かけた。

「入れない?」

黒人の兵士が頷く。

「どうしても?」

また頷く。

「ぼくの叔父、入ってる、穴」

黒人さんはちょっと驚いた顔をする。

「消えた。叔父。帰ってこない。穴。穴」

白人のほうも興味を惹かれたとみえ、ぼくに近づいてきた。なんかしゃべってるが、よくわからない。

「穴、穴、入った。穴、穴、見たい」

まるで変態のセリフみたいだ。ぼくの流暢な英語は切実な思いを二人の兵士に伝えたみたいで、彼らは

目配せしあった後、まわりを見回して誰もいないのを確かめるとぼくをゲートの中に入れてくれた。

こんなに簡単でいいのか?厳戒態勢越えて入っちゃったじゃないの。すごいな、おれ。

驚いていても仕方がないので、とにかく前に進むことにした。振り返ると二人の兵士は笑顔で手を振っ

てたりする。軍隊なのに案外フレンドリーな奴らだなと思いながら歩いていると、目の前にライオンくら

い大きなサソリが現れる。揺れる尻尾の先がいまにも襲いかかってきそうで、怖さに身体が硬直してしま

う。ガクガクとぎこちなく後ろに下がろうとすると、同じだけ前に進んでくる。同じように右にスライド

するとサソリもついてくる。どう動いてもサソリの尻尾の先は常にぼくの胸を狙っている。

腹を括って話しかけてみた。

「いったいどうしたいの?」これは日本語である。

驚いたことにサソリはぼくの問いかけに答えを返してきた。

「いや、べつに。なんとなく」

なんとなくって、どういうことだ?こっちは今にも殺されるんじゃないかとビビッてるっていうのに。

ここで、場面はシフトする。

ぼくは、中学の教室にいる。どうも放課後みたいだ。窓の外では生徒たちの掛け声や笑い声がやかまし

い。ぼくは窓際の壁に寄りかかって座っている。傍らには、クラスメイトの女の子がいる。その子とぼ

くは恋人同士だ。二人で何かを囁きあってわらっている。それをぼくは第三者の眼を通して見ている。

とても、甘くて狂おしくてせつない想いが胸いっぱいに広がってくる。

そして、目が覚める。