読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

フィリップ・K・ディック「ユービック」

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 いままで本書をいれて5冊ディックの本を読んできたが、本書は「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」や「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」と並んで、リーダビリティとエンターテイメント的要素を兼ねそなえた傑作だった。ミステリタッチですすめられていく物語は、いつものごとく悪夢の様相を呈して読むものに否応なき不安感を与え、なおかつそれがサスペンスを盛り上げる役割も果たしている。

 本書のミステリは究極の謎だ。なにしろ自分が生きているのか死んでいるのかがわからないのである。

 それと、タイトルにもなっている「ユービック」。いったいこの「ユービック」なるものが、どんなものなのか?

 この二つのミステリを追い求めて、ディックの悪夢世界が展開されるのである。

 いやあ、もう、最高だ。ディック万歳だ。こんなおもしろいSFを読ませてくれて、どうもありがとうと言いたいくらいだ。

 ミステリの真相についても、ミスディレクションが堂に入っており、意外な真相を引き立たせて秀逸。また、それがなんとも不気味なこと。ディックが構築したSF世界に破綻がないから、すべての要素が一点に集中し見事に着地成功しているのだろう。

 では、ここで物語のさわりだけ紹介しておこう。

 超能力者が跋扈し、人々の生活に入り込んでプライバシーを侵食する世界。ゆえに、反超能力者を組織し、超能力者に対抗するビジネスがまかりとおっている。グレン・ランシターが経営するランシター合作社は、反超能力者の精鋭を有する業界の最大手だが、最近になって、監視している超能力者が忽然と姿を消してしまうという不可解な現象に悩まされている。そんなおり、大事業家であるスタントン・ミックから大口の依頼を受けて、11人の反超能力者と技術者であるジョー・チップを伴い、月に向かったランシター一行は、罠にはまり爆弾によって返り討ちにあってしまう。死亡したランシターの亡骸を抱え、なんとか月から脱出し地球に逃げ帰った一行。だが、そこから悪夢が始まるのである。

 ここで重要なのは、この世界では死後の処理がはやければ、魂だけの存在(半生命体)として維持できる技術があるということだ。脳が破壊されておらず、死後すぐに冷凍保存して鮮度を保ち、迅速に処理すれば、装置を介して死んだ者と残された者が会話できるのである。

 この設定が活かされて「ユービック」は確立されている。生者と死者。自分はいったいどっちなのか?

 これは「アンドロイド~」の自分はアンドロイドなのか、本当の人間なのか?という命題と同工異曲なのだが、そこはディック、似通ったプロットにも関わらず、本書は本書で素晴らしい仕上がりとなっている。う~ん、これはなかなかの傑作だ。