読書の愉楽

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ジェフ・ニコルスン「装飾庭園殺人事件」

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 英国お得意のちょっと悪趣味で普通じゃないミステリ。悪趣味といったら語弊があるかもしれない。だってここで描かれる様々な事柄って、人間にはつきものなのだから。それがモンティパイソンに連なるイングランド式ブラックジョークで少し強調されているのが本書「装飾庭園殺人事件」の世界なのだ。
 
 発端はある男の死ではじまる。テレビにも出演している著名な造園家リチャード・ウィズデンがロンドンのホテルで自殺したというのである。状況はいたって明確に自殺を指し示しているにも関わらず、美貌で少し陰のある彼の妻リビーは、その死に疑いを抱き独自に調査を開始する。彼女は夫の死に関わる人物やヒントをくれそうな人物のもとにおもむきそれぞれに調査を依頼する。
 
 本書はその調査を依頼された様々な人物たちの告白で成りたっている。リチャードが死んだホテルの警備責任者、ウィズデン夫妻にゆかりのある医者、英文学教授などなど。彼らが独自の観点で動き調査し考えを述べてゆく。もちろん真相は藪の中であって、状況もおなじくして憶測がとびかう。しかし、常に背後ですべて掌握しているかのように動くリビーの姿があるのだ。あのピンチョンの「競売ナンバー49」で、かつての恋人の死にによって翻弄されるエディパが行く先々で啓示を受けるように、本書の中ではリビーによって動かされる駒たちが数々のキーワードによって結びつけられてゆく。そう、本書のリビーはまるで逆エディパなのだ。読み手はそのことを強く意識する。
 
 しかし英国。そこは一筋縄ではいかないラストを迎えることになる。リチャード・ウィズデンが死んだホテルに集められる一同。そこで明かされる驚天動地の真相。実のところ、ぼくは『逆エディパ』としての物語として本書をとらえていたので、こういう結末にいたるとは思ってもみなかった。だから驚いた。
 
 その驚きは快感だった。本格ミステリとして本書に挑むと肩透かしをくらうかもしれないが、変格として楽しめる読者にはオススメである。かなり風変わりなミステリなのですよ。