まず冴さん、この本の存在を教えていただいて感謝しております。それと、ゆきあや先輩、先に読んじ
ゃってすいません^^。
ほんと冴さんに教えてもらわなかったらこんなマイナーな文庫、一生見つけることはなかったと思う。
それにこの表紙。いくら魔夜峰央だといっても、このおバカな表紙では読む気が失せてしまう^^。
実際読んでみればわかるが、本書の世界はホントおバカ満開なのだ。船旅の途中で嵐に遭遇し、海に投
げ出された7人の男女。彼らは絶海の孤島に漂着する。そこには、つい最近まで人が住んでたと思われ
る無人の大きな屋敷があった。
ここまではいい。全然おバカじゃない。むしろ、ミステリとして垂涎ものの設定ではないか。
絶海の孤島に建つ大きな屋敷。そこに集まる人びと。やがて起こる連続殺人。う~ん、オーソドックス
だが、ミステリマインドをくすぐる要素たっぷりで、ワクワクしてしまう。
しかしここに登場するキャラがおバカ満開なのだ。一番強烈なのが『ぜにーちゃん』こと銭山サチオ。
筋骨隆々で髭の剃り跡がジョリジョリしているこの大男は、おかまちゃん。ことあるごとに主人公であ
る猿顔の間 男(はざま おとこ)の貞操を奪おうとしている。
乳だしババアのエリザベスもなかなか忘れがたい。まるで妖怪のような容貌で、おっぱいを振り回す。
それに加えて人外の物も出没してしまう。人面の猿に、猿人、果ては老婆の顔を持ち超グラマラスボデ
ィのクセに一物まで備えているというわけのわからないものまで登場する。
要するになんでもありなのだ。〈あとがき〉でも書かれているが、くろけんさん、素の自分を曝け出し
てのびのびと自由に好きなこと書いちゃったらしい。駄洒落や親父ギャグが連発され、笑うどころか思
わず脱力してしまうギャグも満載で、そうかこの人こういうのが好きなんだなあと納得してしまった。
だが驚くことに、この云わば変態おバカなお話がしっかりと本格ミステリになっているのである。
この感覚はあの山口雅也「生ける屍の死」にもっとも近いかもしれない。最近でいえば、西澤保彦がそ
うなのだろう。彼らが得意とするロジックが最良の形でここにあるのだ。どういうことかといえば、あ
りえない設定を用いてその世界でしか通用しない見事なロジックを展開しているというわけだ。
「生ける屍の死」では、死者が甦るというありえない世界で精緻なロジックが構築されていた。
本書ではそれが『呪い』という形で提出される。その『呪い』がどういうものかという事は伏せておこ
う。だがこれだけは書いておく。おバカな世界に散りばめられた数々の伏線がラストで反転する様は見
事。『呪い』がもたらす様々な状況が、すべて意味あるものとして収まるべきところに収まって大いな
るカタルシスをあたえてくれる。それにこの『呪い』のおかげで副題にもある究極の名探偵が誕生して
しまうのだからおもしろい。くろけん、素晴らしいではないか。ぼく的には本書は先に読んだ「ウェデ
ィングドレス」よりもミステリとしては上だと感じた。小技だが暗号もあるし、変格のダイイング・メ
ッセージまであるのである。これは読めてよかったと思う。ほんとうに冴さん、ありがとうございまし
た。そして、ゆきあやさん、うらやましいでしょう?^^。