これも今では絶版になっているんだろうな。
強力推薦します!っていう類の本ではないが、なんかさみしい。
というわけでイギリスSF傑作選である。
今回は収録作全作について簡単に紹介してみよう。
■ タニス・リー「雨にうたれて」
母娘の愛憎からまるところの情感が汚染されきった未来を舞台に描かれるのだが、娘を商品として扱っているのが男性社会に対する女性からの批判になっている。ここんとこがイギリスらしさであり、微妙に屈折している。
■ クリストファー・エヴァンズ「人生の真実」
冒頭で男の子が女の子を殴りたおすのが、なかなかショッキングだった。こちらも男性社会の中であまりにも惨い仕打ちを受けている女性が描かれている。性の目覚めを扱った作品。
■ M・ジョン・ハリスン「ささやかな遺産」
これは、SFというより普通小説のような感じ。少々サイコな感じ。
■ イアン・ワトスン「アミールの時計」
この人は奇想の作家である。本編もその例にもれない。無生物にとっての神だって。誰がこんなこと考える?軽く書かれているが、言ってることは難解である。
■ ブライアン・W・オールディス「キャベツの代価」
アインシュタインの掌。相対性理論を使って、興味深いお話を聞かせてくれる。実際こういうことが起こったら、嫌だけどなってみたい気もする。でもあと百年もすれば、光速移動が可能になって『ウラシマ効果』を目の当たりにすることが出来るんじゃないの?
■ グレアム・チャーノック「フルウッド網」
偶然をつくりだす機械を作ってしまった科学者達がたどる悲劇である。パラドックスの悲劇。
■ ロバート・ホールドストック「スカロウフェル」
最悪のくじ引き。世界は奇妙な論理で構築されている。
■ マイクル・ムアコック「凍りついた枢機卿」
まあ、よくもこれだけふっきれたものだ。なにか未知なる恐怖が感じられる。
■ ギャリー・キルワース「掌編三題」
三篇の中で秀逸なのは「豚足ライトと手鳥」。これはインパクト強かった。結末は見えてるが、不気味なイメージがつきまとい離れない。夢に出てきそうだ。
■ R・M・ラミング「神聖」
なんの説明もない作品だが、イメージがよい。心理描写もよい。読んだしりから忘れてしまいそうな作品だが、信号待ちしている車中で不意に思いだしそうな作品。
■ ディヴィッド・S・ガーネット「月光団」
これも素敵なイメージにあふれる作品。手堅い印象を与える。
■ ディヴィッド・ラングフォード「砂と廃墟と黄金の地で」
はじめは退屈に思ったが、ラストでガーンときた。これほどの思い違いはしたくない。これほどの間違いは出来ることなら教えてほしくない。心にぽっかり悔恨の穴があいてしまうから。
■ キース・ロバーツ「笛吹きの呼び声」
寓話めいたファンタジー。読ますねえ。この人は、かつてサンリオから「パヴァ-ヌ」が出ていた。何年か前に扶桑社から復刊されたが、まだ読めてない。読むのがとても楽しみだ。
■ リサ・タトル「きず」
これは展開に驚いた。おいおい、そんなのなしだぜ。でも、こういうふうになったら、外歩くのが怖くなる。ぼくなどは、絶対泣いて痛がる方になるのだからね。
というわけで、以上14編総じて言えるのは、イギリスってちょっと屈折してるなぁってこと。しのつく雨と、退廃と、はずかしいSEXのイメージが強い。現代イギリスSFの成果とくとご堪能あれ!