読書の愉楽

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チャイナ・ミエヴィル「ジェイクをさがして」

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 十三の中・短編と漫画が一編収録されている。SF文庫で刊行されているが、ぼくが読んだかぎり本書の作品群はどちらかというとSFというよりホラーに近いものだった。

 すべての作品に共通するのはいいしれない不安である。ミエヴィルはほとんどの作品において事の真相を明らかにしない。街を覆う不吉な影、闇の奥から見つめる目、模様の中に存在する邪悪なもの、知らないところで活動を続ける見えない集団。

 何かが進行し、少しづつ世界が変質していく不安。そこには現象だけが存在し、意味は存在しない。読者は現れては消えてゆく数々のイメージと断片を繋ぎ合わせて、それぞれの世界観を構築していく。

 だが、これが正直ぼくには合わなかった。イマイチ描かれる世界に魅力を感じなかったし、その手法にも共感できなかったのだ。こういうこともあるよね。この感覚はジョージ・R・R・マーティンの短編集「サンドキングス」を読んだときと同じだ。どこをどう解釈したら旨味がみつかるのか、とんと見当がつかないのだ。

 でも、そんな中でも好みはあって「基礎」で描かれる史実に基づいているという残酷でグロテスクなイメージや「ボールルーム」の比較的ストレートな怪異、それに「ロンドンにおける゙ある出来事"の報告」に登場するいまだかつてなかった突拍子もない『出来事』などは確かにすごく良かった。印象に残り、ちょっと忘れることができないだろうと思う。

 というわけで、当初期待していた方向性ではなかったので、少し期待はずれの結果となってしまった。おそらくもうこの人の本は読まないだろう。